2021年1月9日土曜日

心淋し川

1.9 読書、ようやく時代小説に。一冊目は、

 西條奈加 『心淋し川(うらさびしがわ)』 集英社 1600円+税

「心」を「うら」と読む。『広辞苑』には、「(表に見えないものの意で)こころ。おもい。」とある。

舞台は江戸根津権現近くの窪地にある長屋。小さな川があるが、淀んでいて流れていない。塵芥が溜まる。落ちぶれて流れ着いた者、自分の意思で来た者。この場所から抜け出したい人、ここで生きていくと決めた人。つかみかけたささやかな幸せも手からすり抜けていく。それでも自分のため、周りの人のため、懸命に生きる。

 連作短篇集。主人公たちに寄り添う差配は謎。哀しい過去を抱えて、目的があって差配になった。前任者に言われた。

「傍から見れば、まさに芥箱(ごみばこ)みてえな町ですがね。汚ねいし臭えしとっちらかってるし。それでもね、あの箱には人が詰まってるんでさ」

 






図書館に行く途中に氏神社がある。元日に孫がまいた南天の実がまだ少し残っていた。

孫は、「 あかいとりことり なぜなぜあかい あかいみをたべた ♫」(詩・北原白秋)の歌が好き。正月の花飾りから落ちた実を、鳥さんにあげる、と言う。初詣して境内の大きな木の根っこにまいた。鳥の声は聞こえる。神社の周りを一周して鳥が食べたか確認に戻った。来た様子なく、あきらめて家に帰った。


 

花飾り落ちた赤い実鳥にやろ

孫の手は賽銭南天ヂヂばなれ

幼子が赤い実を置く初詣  (よ)

 

 図書館調べ物、正岡子規の従弟・藤野古白(ふじのこはく)のこと。平清盛の兵庫津築港の伝説を基にした戯曲「人柱築島由来」がある。完成後、ピストル自殺。1897(明治30)年5月、三周忌に子規は病床で『古白遺稿集』を編集・発行した。坪内逍遥、島村抱月の追悼文。夏目漱石、高浜虚子、河東碧梧桐らが追悼句を寄せている。

 子規の句、

〈古白死して二年櫻咲き吾病あり〉

(平野)