2022年6月11日土曜日

日本の地下水

 6.11 今週は臨時出勤が2日もあり、5日も働いた。残業もした。良いお天気なのに仕事なんて! うかうかしていたら梅雨が来る。元町原稿も進まず。

「みなと元町タウンニュース」更新。拙稿は「光村弥兵衛・利藻」、父子。誰それ!?

https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/2022/06/02/townnews358.pdf

「朝日新聞」夕刊の〈時代の栞(TOKI NO SHIORI)〉。「本を舞台回しに現代史や社会風俗を紹介」。6.8は髙田郁『みをつくし料理帖』シリーズ、上方生まれの女性主人公が江戸で料理の道を歩む人情小説。作中の料理レシピも公開。2009年から14年全10巻、累計420万部。

 


 ブックコンシェルジュきたださんから本届く。現役書店員18人が語る『本屋という仕事』(三砂慶明編、世界思想社)。しばらく本屋本を読んでいなかったが、これは必読。

 妹孫が姉の鼻を囓った。じゃれついたはずみか、お腹すいていたのか? 


 鶴見俊輔 『日本の地下水 ちいさなメディアから』 SURE 2600円+税



 鶴見俊輔生誕100年記念出版。

 1956年、思想の科学研究会は「中央公論」に「日本の地下水」を連載。全国のサークルの小雑誌を紹介、評論した。執筆者は鶴見、武田清子、関根弘。当時「思想の科学」は休刊中だった。同誌は601月号から再開し、連載も移り、21年続いた。

「ちいさなメディア」とは、マスメディアや政党、運動団体の対極にあるもの。同人誌や通信、会報、社内報など。ほとんどがガリ版刷り。現在のミニコミやZINは文化・趣味同好会のイメージだが、全国各地の「ちいさなメディア」は戦後の民主主義、男女同権、食糧難、戦争の危機など社会問題を切実に考えていた。地域運動、図書館内のさまざまなグループ、大学内の研究会、読書会、病院、治療、旧軍人、更生施設、手習い、社内報、学校同窓会、家族通信、宗教……、いろいろなサークルが活動記録・発言を作成していた。

 本書は鶴見執筆分をまとめる。

「日本の地下水」と名づけたのは鶴見の幼なじみ・嶋中鵬二(中央公論社社長)。鶴見が「地下水」に言及しているのは62年「島原の乱以後――『おほもと』」。大本教の月刊誌座談会。大正・昭和戦前、同教団は軍国主義・国家主義を唱えていたにもかかわらず大弾圧をうけた。不敬罪、新聞紙法・治安維持法違反など。勢力が大きくなりすぎた。

〈教祖の王仁三郎が、政府の弾圧をうけてそれにたえたという生き方、蒙古に入って軍部のやり方を見て日本国家の「アジア解放」方式にみきりをつけてはなれていったという生き方の事実の中に、大本教の教理が、あいまいかつ多義的なものから、国際主義・平和主義の方向により限定されたものへと転生してゆく条件を見ている。〉

 信徒内に混乱があり、戦後の時点でも青年たちが問題点を語り合っている。鶴見は彼らの誠実さを称えている。

 61年、九州五島列島のかくれキリシタン36世帯が大本教に改宗する事件があった。16世紀キリスト教伝来以来400年、密かに守り続けていた信仰は独自の形になっていた。明治以後入ってきたキリスト教にはなじめなかった。自分たちの信仰が大本教の信仰に近いことを感じた。信仰とともに、非転向の姿勢を貫いてきた共感。

〈日本の思想史における一つの非転向の伝統が、もう一つの非転向の伝統にうけつがれたといってよい。かくれキリシタンは、もう一つの非転向の伝統に自分たちの信仰をうつしうることをとおして、自分たちが本来もっていた感じ方が、自分たちに理解できる形にいいなおされたことを感じた。この事件は、日本の思想史のもっとも深いところで起こった一つの地下水の水脈ともう一つの地下水の水脈との出会いだった。〉

(平野)