2.8 トルコ大地震、ニュースのたびに犠牲者が増えていく。
職場近所の武術家さんがヒートショックで亡くなったと聞く。体力・体格・鍛錬は関係ないのか。挨拶をするだけのお付き合いだが、ショック大きい。
2.9 訃報。政治評論家・森田実。
2.10 訃報。永井路子、バート・バカラック。
■ 丸谷才一編 『作家の証言 四畳半襖の下張裁判 完全版』
中央公論新社 3600円+税
初版は1979年朝日新聞社刊。本書は「四畳半襖の下張」も収録。
1972年雑誌「面白半分」7月号に、金阜山人戯作「四畳半襖の下張」掲載。編集長・野坂昭如と発行者・佐藤嘉尚がわいせつ文書販売として警視庁より摘発された。刑法175条。罪を認めて罰金を払って収めることができたが、野坂と佐藤は裁判で争う。
73年9月公判開始、76年4月一審有罪、79年3月二審有罪、最高裁上告棄却、80年11月有罪確定。野坂罰金10万円、佐藤15万円。
わいせつとは? わいせつの基準? 国家が決めるのか? そもそも「四畳半~」はわいせつか?
証人として出廷したのは14人。作家仲間、学者、編集者、主婦もいた。本書には被告・野坂、特別弁護人・丸谷才一の弁論、作家9名の証言を収録。それぞれが文学論・荷風論・わいせつ論を語る。検察側は聞き流すだけ。
「四畳半~」は永井荷風が大正時代に密かに書いた作品。江戸戯作者の文体、エロチックな短篇小説。これまで異本や偽本が出まわったことがある。1948年に既にわいせつ文書で摘発されていた。作品の一部。
〈……女は胴のあたりすこしくびれたやうに細くしなやかにて、下腹ふくれ、尻は大ならず小ならず、円くしまつて内股あつい程暖に、その肌ざはり絹の如く滑なれば、道具の出来すこし位下口なりとて、術を磨けば随分と男を迷しうるべし。……〉
五木寛之 〈私の考えで、わいせつというのは大変月並みな言い方ですけれども、懦夫をしても立たしめるていの、そういうものだろうと思うんです。〉
井上ひさし〈わいせつという言葉を抜きにして、たとえば「善良な性的道義観念」といった場合、「善良」と「性的」とそれから「道義」と「観念」と、ばらばらにしますと、辞書ふうに全部わかるわけです。これがくっついたときにわかりませんですね。〉
開高健は、名前の「開」は春本では「女性器」を指す、という。「四畳半~」にも「開中火のごとく」「開中おのずから潤い」の表現あり。「開が高く健やか」という破廉恥な名前だが、とがめられることはない。〈わいせつ感の根拠は、きわめてぼうばくとしている。〉
(平野)権力は憲法違反とか表現・言論の自由と言われると頑なになるのでは。40年前作家たちは立ち上がった、というより権力をおちょくったのでは? 時間と労力をかけて。