■ 古川緑波 『ロッパ随筆 苦笑風呂』 河出文庫 740円+税
底本は『苦笑風呂』(1948年、雄鶏社)。戦後いろいろな雑誌に書いた文章(一部戦前のものあり)。食・酒談義、映画、浅草、文芸評もある。
読み返して恥かしいと書いているが、
然し、何としても、僕の身体には、文筆の虫が棲んでいるらしく、時々書きたくてたまらなくなって来るので、これからも書き続けるつもりである。
役者の余技、というものではない。文筆も、僕の本業の一つである。
役者の仕事で老け役も女形もするし、声色も歌も。「何でも屋であり過ぎる」。ものを書いても「全く、何でも屋である」。
「苦笑風呂」は題名どおり風呂の話。
戦後すぐの映画「東京五人男」(1946年1月公開)撮影中のこと。ロッパは汗かき、冬でも風呂に入らないと気持ちが悪い。戦中からの燃料不足で、風呂なしが続くと全身かゆくなる。華族のおぼっちゃま。撮影所近くで間借りしていて、そこの小母さんが銭湯に行けば、と言うが、ロッパは銭湯がいや。人気者ゆえ落ち着いて入っていられない。小母さんが風呂のある家に頼んでくれることに。
翌日、撮影所の浴場が久しぶりに風呂を沸かしてくれ、「ああ有がたし有がたし」と南無阿弥陀仏を唱えるほど風呂を楽しむ。帰ると小母さんが、隣の家が風呂を沸かしてくれた、と。断れず伺う。サラ湯。洗うところがないと思っていたら、頭を洗っていなかった。お礼を言って戻ると、三軒先の家でも風呂を沸かしてくれていた。小母さん、「これも浮世の義理と思って」。
ロッパはのぼせてフラフラ、「身体中の皮膚がヒリヒリ」。
その翌日、撮影は「野天風呂」のシーンであった、というオチ。
(平野)