■ 松本哉 『女たちの荷風』 ちくま文庫
2009年6月刊
2002年白水社から単行本。荷風に関わった女性を「逸話的、文学的」に綴った荷風評伝。
編集者が聞く。「そもそも荷風に惹かれたきっかけは何? 公式見解でなく」。
松本は正直に「やはり文章、あの名文!」と答えたが、編集氏は不満だったに違いない。
残念ながら本音も本音、いくら非公式にくだけてみても「やっぱり文章、あの名文!」なのであるが、『四畳半襖の下張』で代表されるような男女の「風流」と永井荷風が切っても切れない関係にあるのは百も承知である。堂々と「女たちの荷風」を書いてみようと思ったのである。
目次
めざめのころ 深川の恋 異国で別れた女 二度の結婚と離婚 人騒がせな「文学芸者」 男の後悔 性懲りもなく 終生の愛人と男の夢 墨東の女たち ……「荷風」はペンネーム。由来は、いわゆる「初恋」。中学生時代、入院した先の看護婦「お蓮」さん。植物ハスを表す漢字に、「荷」もあるそう。
退院後、その思い出を書き、「荷風小史」と署名した。『春の恨み』という処女作だが、現存しない。後年、『歓楽』という作品に初恋のことを書いている。純粋で美しい恋からというのは意外。
松本は女性につながる筆名を使った作家を6人挙げている。それぞれ事情がある。徳富蘆花や森鴎外も、そうらしい。
(平野)