2017年7月22日土曜日

書店員X


 長江貴士 『書店員X 「常識」に殺されない生き方』 
中公新書ラクレ 840円+税

 盛岡市さわや書店フェザン店の書店員長江が、ある文庫本をオリジナルの手書きカバーで覆い、書名・著者名を隠して販売した。カバーには、この本を読んでほしいという思いを込めてメッセージを書いた。私はテレビでこの企画を知って、〈さわや〉やからできるんや、と思っていた。地域と強い繋がりをつくり、独自のロングセラーを開拓している本屋さんだ。しかし、私の認識不足だった。

まず、長江がこの文庫に出会い、読んで衝撃を受けた。

《ページをめくる手を止めることができないと感じた本は、それまでなかった。そもそも扱われている事件のことを詳しく知らなかった僕は、先の展開がどうなるのか気になって仕方がなかった。さらに、読み進めながら、今までこれほどの現実を知らずに生きてきたことを恥じもした。そしてこの本は、どんなやり方をしてでも、一人でも多くの人に読んでもらわなければならない、と感じたのだ。》

 表紙を隠したのは読者の先入観を取り除くための「手段」だった。

「常識」「先入観」に囚われず、本を売る。業界本と言えばそうだが、長江には何よりも訴えたいことがある。「生きづらさを感じてきた」と、自らの経歴を明らかにして、読者にメッセージを贈る。
 
 

 写真は〈さわや〉の人たちが書いた本。

(平野)「文庫X」はすでに明らかにされている。清水潔『殺人犯はそこにいる』。北関東で起こった幼女誘拐殺人事件。著者が執念の取材で5件の事件の関連性を見出し、無実の人物を釈放に導き、さらに真犯人に迫るというノンフィクション。