■ 大佛次郎 『大楠公 楠木正成』 徳間文庫 1990年10月刊
戦前、新聞雑誌に連載した楠木正成シリーズ。
「大楠公」 1935年「朝日新聞」連載(正成戦死600年記念)。
「みくまり物語」 43年「毎日新聞」連載。
「楠の葉蔭」 43年「週刊朝日」連載。
当然時勢には気を遣っている。でもね、決まり文句の戦意高揚熟語はない。足利方を悪者にしていないし、正成を悲劇のヒーローに仕立てていない。
大佛の〈正成〉評は「正直で、きれい」。
尊氏は正成の首を検分した後、「故郷へとどけてやれい」と命じる。
《「この男だけには、最初から俺れも一目置いていた。何としても、ほかの人間とは違っていた。正直で、きれいだった。また戦のことになると、当代は愚か、昔にもこれだけの名将がおったかどうか……と思うことがあった」》
(平野)うみねこ堂書林にて。