2017年7月6日木曜日

斎藤昌三書痴の肖像


 川村伸秀 『斎藤昌三 書痴の肖像』 晶文社 5500円+税

明治から大正・昭和まで活躍した出版人・斎藤昌三(18871961)を中心に〈書痴〉〈畸人〉、小島烏水、三田村鳶魚、吉野作造、宮武外骨、辻潤、柳田國男、坪内逍遥、斎藤茂吉……多数登場。カラー写真、索引含め500ページ超の大作。カバー表裏と本体。本体の絵は明治大正の限定本人気ランキング「手拭」。〈少雨荘〉は斎藤の俳号。
 


 
 

斎藤は神奈川県生まれ、郷土・民俗学・性文化・書物・蔵書票研究、俳句、編集など多彩な活動。31(昭和6)年、庄司浅水、柳田泉らと『書物展望』(書物展望社)創刊。奇抜で凝った造本・装幀をほどこし、書物愛好家を驚かせてきた。単行本第一号の『魯庵随筆 紙魚繁昌記』装幀には酒を入れる革袋を使い、古い和本を切り取り、書名に合わせ虫喰いの部分を貼った。他に、蚕卵紙(蚕に卵を産みつけさせる紙)や傘の油紙、竹、フロシキ、和洋の古文書を使ったり、特殊な香料をインクに混ぜたり。廃物利用で、自ら「ゲテ装」と呼んだ。手作業の限定本ゆえ、流通は書店注文か読者直接注文のみだった。

斎藤は書誌学者でもある。昭和初期、岩波書店が初めて『露伴全集』を出版するとき、内容見本を見てその不備を手紙で指摘した。面識のなかった岩波茂雄から「御援助を乞ふ」の返信があり、多くの露伴作品を提供した。しかし、一部しか採用されず、「好意奔走は全く裏切らるゝ」全集だった。斎藤怒り爆発、「放慢なる『露伴全集』」を発表、岩波の編集と経営を《……地口的に云へば「揃はぬ全集」であり、「そろばん全集」であることを断言する。》と批判している。斎藤が望んだ『露伴全集』が出版されるのは戦後になる。

著者は1953年東京生まれ、文筆家・編集者。こちらを。


(平野)今月は本買えないかもしれない。