■ 『プレヴェール詩集』 小笠原豊樹訳 岩波文庫 840円+税
ジャック・プレヴェール(1900~77)はシャンソン「枯葉」作詞で知られる。映画ファンなら「天井桟敷の人々」の脚本。
外国語のできない私は翻訳詩を読むとき、恥ずかしながら、と思う。
小笠原がこう解説してくれる。フランスで「プレヴェールの奇蹟」と言われる詩人だが、奇蹟でもなんでもない。
《……プレヴェールの詩を読んで味わうには、なんらかの予備知識や、専門知識や、読む側の身構えなどがほとんど全く不必要であるからです。プレヴェールの詩はちょうど親しいともだちのように微笑を浮かべてあなたを待っています。それはいわば読む前からあなたのものなのです。》
その「奇蹟」を可能にしているのは、プレヴェールが芸術家の友たちと育んだ「自由と友愛の雰囲気」。その《青春の精神は今なおプレヴェールの詩のなかで呼吸しています。》
谷川俊太郎のプレヴェール論も収録。
《……僕はフランス語がからしき出来ない。だからぼくがいくらプレヴェール、プレヴェールといったところで、それは日本語におきかえられたプレヴェールのことなのです。(中略)翻訳じゃ絶対に分からない部分もあるかわりに、翻訳で読んで分かりすぎるほどわかる部分もあると思います。翻訳じゃ絶対に分からないところは、フランス人にまかせておいて、僕はもっぱら、翻訳でもわかる方を楽しむことにします。(後略)》
「家族の唄」
おふくろが編物をし、息子は戦争、おやじは事業。戦争が終ったら息子はおやじと事業するつもりだが、戦争はつづく、おふくろは編物、おやじは事業。
《……息子が戦死する 息子はつづかない/おやじとおふくろが墓参りをする/これは当然のこと とおやじとおふくろは思う/生活がつづく 編物と戦争と事業の生活/事業と戦争と編物と戦争の生活/事業と事業と事業の生活/生活と墓場が。》
「恋する二人」
《恋する二人は立ったまま抱き合い/夜の戸口によりかかる/行き来のひとがゆびさすけれど/恋する二人には/だれもみえない(後略)》
「枯葉」は私たちの聴いている日本語歌詞とはかなり違う。原詩は「シャベル」で枯葉を集める。風に散る葉ではなく地面の落ち葉というイメージ。
《……枯葉を集めるのはシャベル ね ぼくは忘れていないだろう/枯葉を集めるのはシャベル 思い出も未練もシャベルで(後略)》
小笠原豊樹(1932~2014)は「岩田宏」名で詩、小説。「小笠原」名義で露・英・仏語翻訳多数。
(平野)