2017年8月31日木曜日

WAR IS OVER! 百首


■ 南輝子 『WAR IS OVER! 百首』 ながらみ書房 2000円+税

 南は1944年和歌山県御坊市生まれ、歌人・画家。
 父は敗戦時ジャカルタの製紙工場勤務、現地住民が武装蜂起し、部下共53名が犠牲になった。事件は極秘事項となった。1980年、アメリカ公文書公開で明らかになり、遺体が発掘された。53体の骸骨。

《ばらばらに交じりあひ重なりあひ、崩れ溶けだし、なかば地へ還り、それでも生きたいとほりだされるのを待つてゐた骨骨骨。》(南はさらに「骨」の文字を連ね、犠牲者の慟哭を聴く)

南にとって敗戦・終戦の日は父親が殺された日で、戦争は終わらなかったし、戦後は始まらなかった。

《歳月やジャワ・ジャカルタの虐殺をひとに語りてさらにへだたる》

《はちぐわつは青空ばかり青空の底踏みぬいてもまたもや青空》

《生きかはらむ生まれかはらむ繋がらむ死者(WAR )(IS)生者( OVER、)(IF)( YOU)あはせて(  WANT IT.)

 201412月、南は歌会で沖縄訪問。同地の歌人の父は海で戦死、骨は探しようがない。沖縄の12月は真っ青な空、むきだしの太陽、半袖、サンダル、ゴムぞうり。国際通りの茶店でジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」を聴く。

《「あの時この海は血でまつ赤に染まつたさうです」。店の若い亭主が淡々と語る。急にジョンの唄に痛みが走る。/夏のクリスマスに聴いたジョンのパッピー・クリスマス――WAR IS OVER,IF YOU WANT IT. 私は忘れないだろう。》


 戦争体験者は亡くなっていく。その記憶を聞かされた世代は高齢化し、記録しか残らなくなる。その記録さえ隠されてしまう。せめて記憶を記録しておかなければならない。
 南は歌と絵で平和を祈る。

(平野)
 著者から本書と歌誌をいただく。感謝。