■ 南輝子 『WAR IS OVER! 百首』 ながらみ書房 2000円+税
南は1944年和歌山県御坊市生まれ、歌人・画家。
父は敗戦時ジャカルタの製紙工場勤務、現地住民が武装蜂起し、部下共53名が犠牲になった。事件は極秘事項となった。1980年、アメリカ公文書公開で明らかになり、遺体が発掘された。53体の骸骨。
《ばらばらに交じりあひ重なりあひ、崩れ溶けだし、なかば地へ還り、それでも生きたいとほりだされるのを待つてゐた骨骨骨。》(南はさらに「骨」の文字を連ね、犠牲者の慟哭を聴く)
南にとって敗戦・終戦の日は父親が殺された日で、戦争は終わらなかったし、戦後は始まらなかった。
《歳月やジャワ・ジャカルタの虐殺をひとに語りてさらにへだたる》
《はちぐわつは青空ばかり青空の底踏みぬいてもまたもや青空》
《生きかはらむ生まれかはらむ繋がらむ死者も生者も力あはせて》
2014年12月、南は歌会で沖縄訪問。同地の歌人の父は海で戦死、骨は探しようがない。沖縄の12月は真っ青な空、むきだしの太陽、半袖、サンダル、ゴムぞうり。国際通りの茶店でジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」を聴く。
《「あの時この海は血でまつ赤に染まつたさうです」。店の若い亭主が淡々と語る。急にジョンの唄に痛みが走る。/夏のクリスマスに聴いたジョンのパッピー・クリスマス――WAR IS OVER,IF YOU WANT IT. 私は忘れないだろう。》
戦争体験者は亡くなっていく。その記憶を聞かされた世代は高齢化し、記録しか残らなくなる。その記録さえ隠されてしまう。せめて記憶を記録しておかなければならない。
南は歌と絵で平和を祈る。
(平野)
著者から本書と歌誌をいただく。感謝。