2018年3月29日木曜日

橋上の詩学


 樋口良澄 『鮎川信夫、橋上の詩学』 思潮社 2700円+税

《荒地》の詩人・鮎川信夫(19201986)評伝。詩、推理小説翻訳の他、時事・社会問題でも発言した。

樋口は元『現代詩手帖』編集者。
書名は鮎川の代表作「橋上の人」から。

 

〈高い欄干に肘をつき/澄みたる空に影をもつ 橋上の人よ/啼泣する樹木や/石で作られた涯しない屋根の町の/はるか足下を潜りぬける黒い水の流れ/あなたはまことに感じてゐるのか/淀んだ鈍い時間をかきわけ/櫂で虚を打ちながら 必死に進む軸の方位を (後略)〉

 誌友戦死。鮎川は出征前に敗戦を覚悟してこの詩を書いた。鮎川は橋の上から両岸、「此処と彼処」、「過去と未来」を見ている。樋口は、鮎川の「絶望」と「孤独」を読み取る。

戦後、鮎川は二度改稿し、「絶望」のかわりに「希望」を書き、「戦争期と戦後を架橋して」書き継いだ。

(平野)
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