2023年3月12日日曜日

芥川・菊池 アリス

3.9 午前中図書館。司書さんと話している人の声に聞き覚えある。そーっと近づくと古書片岡店主、ヂヂふたりハグ、変なの!

 神戸税務署に確定申告書類持参。

ギャラリー島田「心を観る 時代を観る――中井久夫さんを偲んで」。精神医学の診察、著作、講演、詩、翻訳……、スーパーマンぶりがわかる展示。遠方からもお客さん来廊の由。ギャラリー島田、新しい方向が生まれそう。

3.10 近代出版史をコンパクトにまとめた本を読んでいるけれど、誤植が多く、文章も整っていない。内容を信用していいのか不安。横書きというのも不満。

3.11 何度か書いているが、あの日あの時間、大阪梅田で仏教書出版社の会、映画試写の最中だった。ビルが揺れた。

午前中、図書館。買い物、BIG ISSUE450、表紙とインタビューはスピルバーグ。特集は「ふくしまの12年」。本屋さん、時代小説2冊。

 


 『芥川龍之介・菊池寛共訳 完全版アリス物語』 

ルイス・キャロル 澤西祐典訳補・注解 グラフィック社 

1800円+税



 芥川龍之介と菊池寛が『不思議の国のアリス』を訳していた。

菊池は作家活動をしながら若手作家のために「文藝春秋」を創刊。はじめは薄い雑誌だったが、次第にページ数が多くなり、部数も増えた。菊池は興文社『小學生読本』の編集を手伝ったが、新たに『小學生全集』の相談を受け、協力。当時出版界は円本全集ブーム。『小學生全集』(興文社・文藝春秋社、全88巻)は135銭で販売。『アリス物語』はその第28巻、1927(昭和2)年11月刊。芥川が自死したのは同年7月だった。「共訳」とあるが、どこからどこまでをどちらが訳したのか、また別の人物が訳したものを手直ししたのか、研究者の間でも不明。

……『不思議の国のアリス』の邦訳として、今なお高い水準を誇る名訳です。例えば、タルトが「お饅頭」になるなど、お菓子を和菓子になぞらえている箇所もあれば、アリスが「変ちきりん、変ちきりん」と叫ぶなど、原文の味わいを見事に訳出している部分もあります。また、アリスが出逢う不思議な生き物たちが、活き活きとしたオノマトペをまとって躍動する様には、文豪の筆遣いが感じられます。〉

「変ちきりん、変ちきりん」の原文はキャロルの造語で、翻訳者たちが知恵を絞り、工夫してきた。「奇妙れてきつ! 奇妙れてきつ!」(柳瀬尚紀)、「ますます、妙だわ、ちきりんよ!」(高橋康也・高橋迪)など。

 芥川・菊池は読者が想像しやすいように説明的に訳したり、語呂合わせしたり、お金の単位を円にしたり。ふたりが訳していない部分が何ヵ所かあり、澤西が補っている。また、注釈にふたりのエピソードを加えている。

 澤西は小説家、芥川研究、ルイス・キャロル研究。

(平野)