2023年3月9日木曜日

夢と一生

3.5 「朝日新聞」神戸版に紹介記事。

ギャラリー島田「こころを観る 時代を観る――中井久夫さんを偲んで」

34日(土)~329日(水) 11001800 但し7日・17日(水)休み



 イタリア映画「丘の上の本屋さん」。美しい山村を舞台に、古本屋の老主人と移民少年の本を通した交流。少年の本を持つ姿が凛々しい。

3.6 今週は仕事不規則で、今日は休み。図書館休館。

映画「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」1967年寺山が構成したTBSテレビドキュメント番組があった。道行く人たちにカメラを向け、マイクを突きつけ、「日の丸」について矢継ぎ早に質問を浴びせる。建国記念の日が祝日として施行された年、高度経済成長の最中。当時の政治家・郵政省が「偏向」と問題視。

2022年同テレビ局のディレクターが同じ手法で人びとに問いかける。日の丸とは? 祖国とは? 戦争とは? ……。 

 寺山は問うことで何をしたかったのか、自分ならどう答えるか、55年前と現在で日本人の認識、答えは変わったのか。

寺山の短歌、〈マッチ擦るつかのま海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや〉

そこに愛はあるんか~?

「みなと元町タウンニュース」更新。拙稿は戦争中の西村旅館。

https://www.kobe-motomachi.or.jp/motomachi-magazine/townnews/

 

3.8 確定申告書類。

 渡辺京二 『夢と一生』 

河合文化教育研究所発行 河合出版発 1000円+税



 渡辺は本書の校正をすませて亡くなった。自身の半生を語る。

 少年時代を満洲で過ごした。「祖国とは桜の咲く美しい理想郷」だった。

……つまり、日本というのは正直な国である、心が清い国である、とても素直で、心がきれいな国である、というふうに子ども心に思っていました。(中略)天皇さんがちゃんと見ている。国民の中に一人でも、不正に泣くようなものがあってはならない。(後略)〉

 祖国は正義の国、正義を世界に実現しようとしている、と。敗戦、飢え、寒さ、すべてがひっくり返った。渡辺少年は文学と映画によって軍国主義から抜け出した。ヨーロッパの自由、個人主義を発見する。引き揚げ事業で働き、共産主義に感化される。帰国し旧制中学に転入するが、結核療養所生活、党活動。戦争中の軍国主義と同じように、共産党を信じ、「本気ですべてを党に捧げつくす」。党内の分派闘争、離脱。

……軍国少年から共産主義者へ変身した自分は、実は何も変わっていなかったと。生活の根拠なしに、ある理念から別の理念に移っただけだったと。これは大きな衝撃でした。ここからぼくの本当の戦後が始まるわけです。〉

 結婚して、子育てしながら大学を出て、編集者になり思想家たちに影響を受けた。そして水俣病闘争、ここでも分裂や差別があり、「政治的ロマン主義」と決裂。

〈現代という時代は、貧乏の克服や人権の保障については、かつてない高いレヴェルに達しつつある時代です。にもかかわらず、人と人の気持ちが大変通じにくい時代になってきています。これが現代の最大の問題で、私たちの生き方もみなその点に関わらざるを得ないと思います。〉

「大変むずかしい問題」。答えは簡単に出ないが、小さい問題ですぐに改善できることはある、と。ひとつは「言葉の問題」。奇怪な日本語になっている。直截な言い方をせず、あいまいな表現で問題をぼやかしている。それに日本固有の文化・歴史を知らない。それがあってこそ「人間が人種を超えて交流」が素晴らしいものになる。

 本書が「河合ブックレット」最終巻。予備校・河合塾の講師たちによる自発的な文化講演会から生まれた。同塾はじめ予備校講師には後に著名な学者・思想家になる人たちがいる。渡辺も同塾福岡校で現代文を教え、同文化教育研究所の研究員だった。

(平野)