■ 碧野圭 『全部抱きしめて』 実業之日本社文庫 619円+税
吉祥寺の人。
『情事の終わり』に続く大人の恋愛小説。碧野版『武蔵野夫人』。
前作品で、美貌の編集者奈津子(42歳)は年下の同僚関口諒(あきら)と激しい恋に落ちた。ともに家庭を持つ身。有名作家の横暴もあり、ふたりの仲は引き裂かれ、奈津子は家庭も仕事も失った。
一年後、奈津子の前に諒が。
……
まさか、そんな。
こちらの気配に気がついたのか、男がこちらにゆっくり顔を向けた。そうして、憎らしいほど落ち着いた声で「やあ」と言った。
間違いではなかった。関口諒だった。
体中が凍りついたように動けなかった。(略)
「どうして――来たの」
ようやくそれだけを言えた。(略)諒は一瞬、とまどったような顔になり、すぐに何かをぐっと呑みこんだような顔つきになって、単刀直入な返事をした。
「会いたかったから」
……
奈津子の心は乱れる。「また来るから」と諒は去った。
奈津子は叔母がボランティアをしているデイケア施設に同行。おばあさんが本を読んでと出してきた。
男には 男の 女には 女の 存在の 哀れ 一瞬に薫り たちまちに消え 好きでなかったひとの かずかずの無礼をゆるし 不意に受け入れてしまったりするのも そんなとき そんなときは限りなくあったのに それが何であったのか 一つ一つはもう辿ることができない ……
(茨木のり子『自分の感受性くらい』より「存在の哀れ」)
途中から涙がぽろぽろこぼれて読めなくなる。おばあさんが背中をさすってくれた。
施設でアルバイトをすることになる。
諒は毎週土曜日にやって来る。
奈津子は小金井、諒は世田谷住まい。武蔵野には「はけ」=多摩川が太古から台地を削った崖=国分寺崖線が残る。立川から小金井、調布、世田谷まで続く。ふたりは「はけ」のあちこちを散歩。奈津子は週末を楽しみにするが、娘が来て彼とハチ合わせ、気まずい思いもする。
いつもの散歩の途中、大雨で雨宿りのためモーテルに。ついに関係が戻る。
奈津子は友人の紹介で校正の仕事を始めるが、妊娠。産む決意。奈津子の母・兄は冷たい対応だが、叔母と義姉に助けられる。義姉は、かの有名作家の新作(奈津子と諒をモデルにした小説)を読み、愛を貫く主人公に感動、何も知らず奈津子たちの姿を重ねたのだった。
娘は諒と良い関係が築けそう。諒の妻はこれまで離婚を拒否していたが、奈津子と赤ちゃんに会って気持ちが変わる。
正月、諒の父・兄と会うため実家訪問。国分寺崖線を見に行く。
奈津子と諒は「国分寺崖線」で繋がっていた。
ウチは「西国街道」で繋がっておった。
◇ 日記 10月21日 月曜日
みずのわ出版HP連載 「本屋の眼番外 神戸本屋漂流記」第36回 「海文堂書店のあゆみ 2011年9月から閉店まで」 アップしました。
なんで当ブログ名が「ほんまに日記」なのかというと、「ほんまに」12月復刊を目指しているから。まだ原稿を頼んでいる状態なのに、予約を受け付けている厚かましさ。
夜、大阪・玉造の居酒屋にて「花房観音トーク会」。
【海】奥の院ゆかりの「観音様」のご尊顔を拝しお言葉をいただく。
『さいごの色街 飛田』の著者・井上理津子さん企画。関西出版界のドン・Kさんからお誘い。
私、J堂で観音様の新刊『恋地獄』(メディアファクトリー)をゲットして駆けつけました。ああ、これで当ブログでも「奥まで~」ができる!
(平野)