2013年10月22日火曜日

全部抱きしめて


 碧野圭 『全部抱きしめて』 実業之日本社文庫 619円+税 

 吉祥寺の人。

『情事の終わり』に続く大人の恋愛小説。碧野版『武蔵野夫人』。

 前作品で、美貌の編集者奈津子(42歳)は年下の同僚関口諒(あきら)と激しい恋に落ちた。ともに家庭を持つ身。有名作家の横暴もあり、ふたりの仲は引き裂かれ、奈津子は家庭も仕事も失った。

 一年後、奈津子の前に諒が。


…… 

まさか、そんな。

 こちらの気配に気がついたのか、男がこちらにゆっくり顔を向けた。そうして、憎らしいほど落ち着いた声で「やあ」と言った。

 間違いではなかった。関口諒だった。

 体中が凍りついたように動けなかった。(略)

「どうして――来たの」

 ようやくそれだけを言えた。(略)諒は一瞬、とまどったような顔になり、すぐに何かをぐっと呑みこんだような顔つきになって、単刀直入な返事をした。

「会いたかったから」 
……


 

奈津子の心は乱れる。「また来るから」と諒は去った。

 奈津子は叔母がボランティアをしているデイケア施設に同行。おばあさんが本を読んでと出してきた。

男には 男の  女には 女の  存在の 哀れ  一瞬に薫り  たちまちに消え  好きでなかったひとの  かずかずの無礼をゆるし  不意に受け入れてしまったりするのも  そんなとき  そんなときは限りなくあったのに  それが何であったのか  一つ一つはもう辿ることができない ……

(茨木のり子『自分の感受性くらい』より「存在の哀れ」)

 途中から涙がぽろぽろこぼれて読めなくなる。おばあさんが背中をさすってくれた。

 施設でアルバイトをすることになる。

 諒は毎週土曜日にやって来る。

奈津子は小金井、諒は世田谷住まい。武蔵野には「はけ」=多摩川が太古から台地を削った崖=国分寺崖線が残る。立川から小金井、調布、世田谷まで続く。ふたりは「はけ」のあちこちを散歩。奈津子は週末を楽しみにするが、娘が来て彼とハチ合わせ、気まずい思いもする。

 いつもの散歩の途中、大雨で雨宿りのためモーテルに。ついに関係が戻る。

 奈津子は友人の紹介で校正の仕事を始めるが、妊娠。産む決意。奈津子の母・兄は冷たい対応だが、叔母と義姉に助けられる。義姉は、かの有名作家の新作(奈津子と諒をモデルにした小説)を読み、愛を貫く主人公に感動、何も知らず奈津子たちの姿を重ねたのだった。

 娘は諒と良い関係が築けそう。諒の妻はこれまで離婚を拒否していたが、奈津子と赤ちゃんに会って気持ちが変わる。

 正月、諒の父・兄と会うため実家訪問。国分寺崖線を見に行く。
 奈津子と諒は「国分寺崖線」で繋がっていた。

「帯」に「不倫小説」とある。確かにふたりの愛の形は「不倫」なのだが、辛い恋に耐えてきた彼らを祝福したい。回りの人が皆それなりに幸せの方向に落ち着くのはフィクションだからこそでしょうが、読む方もそのほうがいい。ドロドロは辛い。

 

ウチは「西国街道」で繋がっておった。


 日記 1021日 月曜日

 みずのわ出版HP連載 「本屋の眼番外 神戸本屋漂流記」第36回 「海文堂書店のあゆみ 20119月から閉店まで」 アップしました。


 

 なんで当ブログ名が「ほんまに日記」なのかというと、「ほんまに」12月復刊を目指しているから。まだ原稿を頼んでいる状態なのに、予約を受け付けている厚かましさ。



 夜、大阪・玉造の居酒屋にて「花房観音トーク会」

【海】奥の院ゆかりの「観音様」のご尊顔を拝しお言葉をいただく。

『さいごの色街 飛田』の著者・井上理津子さん企画。関西出版界のドン・Kさんからお誘い。

 私、J堂で観音様の新刊『恋地獄』(メディアファクトリー)をゲットして駆けつけました。ああ、これで当ブログでも「奥まで~」ができる!
(平野)