2015年2月21日土曜日

辻征夫詩集


 『辻征夫詩集』 谷川俊太郎編 岩波文庫 560円+税
 辻征夫(19392000)東京浅草生まれ。
「自筆年譜」より。
 高校時代詩作に熱中、雑誌に投稿。「文章クラブ」(「現代詩手帖」の前身)で入選するが、「このときから詩が書けなくなった」。二十歳の時、久々に「現代詩手帖」に投稿したところ掲載された。二十三歳、第一詩集『学校の思い出』を自費出版。「私の詩は、これで終わりと思った」。小学校事務職員、出版社アルバイトを経て思潮社で編集者。「三十歳になったのを契機に、詩の書き手の側に身を置くことを決意」、退社。第二詩集『いまは吟遊詩人』(思潮社)出版。32歳、公営住宅を修繕する公社に入り、「出版界からは離れた場所に身を置き、詩を書くことを決意」。
 表紙の図版は色紙に書いた「天使」

素直な こころで
聖ブノア教会の 鐘の音などを
遥かに思い お祈りなども
ギヨオム・ド・ヴィヨンのおっさんの
禿頭(あたま)にかけて すばやくすませ
ごく自然に お酒を飲む
これが 天使になる 秘訣です
……

6つ「註」をつけてある。詩人ヴィヨンについて、「禿頭であったという確証はない。どっちでもいいことではないだろうか」とある。

「かぜのひきかた」

こころぼそい ときは
こころが とおく
うすくたなびいていて
びふうにも
みだれて
きえて
しまいそうになる
 
こころぼそい ひとはだから
まどをしめて あたたかく
していて
これはかぜを
ひいているひととおなじだから
ひとは かるく
かぜかい?
とたずねる
 
それはかぜではないのだが
とにかくかぜではないのだが
こころぼそい ときの
こころぼそい ひとは
ひとにあらがう
げんきもなく
かぜです

つぶやいてしまう

すると ごらん
さびしさと
かなしさがいっしゅんに
さようして
こころぼそい
ひとのにくたいは
すでにたかいねつをはっしている
りっぱに きちんと
かぜをひいたのである

(平野)