■ 『辻征夫詩集』 谷川俊太郎編 岩波文庫 560円+税
辻征夫(1939~2000)東京浅草生まれ。「自筆年譜」より。
高校時代詩作に熱中、雑誌に投稿。「文章クラブ」(「現代詩手帖」の前身)で入選するが、「このときから詩が書けなくなった」。二十歳の時、久々に「現代詩手帖」に投稿したところ掲載された。二十三歳、第一詩集『学校の思い出』を自費出版。「私の詩は、これで終わりと思った」。小学校事務職員、出版社アルバイトを経て思潮社で編集者。「三十歳になったのを契機に、詩の書き手の側に身を置くことを決意」、退社。第二詩集『いまは吟遊詩人』(思潮社)出版。32歳、公営住宅を修繕する公社に入り、「出版界からは離れた場所に身を置き、詩を書くことを決意」。
表紙の図版は色紙に書いた「天使」。
素直な こころで
聖ブノア教会の 鐘の音などを遥かに思い お祈りなども
ギヨオム・ド・ヴィヨンのおっさんの
禿頭(あたま)にかけて すばやくすませ
ごく自然に お酒を飲む
これが 天使になる 秘訣です
……
6つ「註」をつけてある。詩人ヴィヨンについて、「禿頭であったという確証はない。どっちでもいいことではないだろうか」とある。
「かぜのひきかた」
こころぼそい ときは
こころが とおくうすくたなびいていて
びふうにも
みだれて
きえて
しまいそうになる
こころぼそい ひとはだから
まどをしめて あたたかく
していて
これはかぜを
ひいているひととおなじだから
ひとは かるく
かぜかい?
とたずねる
とにかくかぜではないのだが
こころぼそい ときの
こころぼそい ひとは
ひとにあらがう
げんきもなく
かぜです
と
つぶやいてしまう
すると ごらん
さびしさとかなしさがいっしゅんに
さようして
こころぼそい
ひとのにくたいは
すでにたかいねつをはっしている
りっぱに きちんと
かぜをひいたのである
(平野)