■ 石川桂子編 『竹久夢二詩画集』 岩波文庫 1200円+税
竹久夢二(1884~1934、岡山県生まれ、神戸市、福岡県に転居)は17歳で家出して上京、早稲田実業学校在学中から短文や絵を新聞・雑誌に投稿する。この頃のことを書いた文章がある。日本画家の家の離れ(画家は死亡、未亡人と老母の暮らし)で友だちと自炊生活。武蔵野の自然と近所の人たちとの交流を楽しんでいた。
《家の前には青草の原があった。私達はよく学校をエスケイプして、摘草(つみくさ)する人々の群(むれ)に交っては、胸に沁(し)む春の匂をこころゆくばかり吸いながら若草の上を彷徨(さまよ)うた。そして近隣の美しい少女や少年を集めて、お伽噺(とぎばなし)を聞かせたり、聞いたり、或(あるい)は唱歌を唄ったりした。》
隣家の娘さんを「天使(エンジェル)」とあがめ、豆腐屋家族の仲の良さを見るために通い、菓子屋の常連になっておまけしてもらう。夢二はそんな日常生活の「美」を残しておきたいと思う。読売新聞(1905年6月)に投稿した短文「可愛いお友達」が掲載された。
《ある時ふと詩の替りに画(え)で自分の心を語ろうとした。ところが文字(もんじ)よりも線の方が自分の情緒を語るのに的(てき)しているように思われた。それが私の文字を捨てて画(が)に趨(おもむ)いた始めである。(中略)
そのころの雑誌に挿まれたコマ絵は、多く竹に雀とか、雪に犬とか、在来の日本画に用いられた、極めて古い題材のもとに描かれていた。しかし私はそんなものを描く事は好まなかった。私は自分の周囲から得た印象をそのまま描いて、画題などは後(あと)からした。それでそのころの挿画としては極めて自由なものであった。》
〈竹久夢二 本からはじまるメッセージ展 ブックデザイナー&詩人の顔に迫る〉
竹久夢二美術館(東京都文京区) 9.30~12.25http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yumeji/exhibition/now.htm
(平野)