11.26 遠藤周作『影に対して 母をめぐる物語』(新潮社)を読む。本年6月、長崎市遠藤周作文学館が資料から発見、と公表した原稿「影に対して」。1963年3月以降の執筆らしい。遠藤は完成しながらも発表していなかった。家族・関係者への配慮だろう。
勝呂は売れない翻訳家。幼き日、満州大連で家族と過ごした。父と母は離婚。母は東京で音楽教師になる。一家も神戸に戻り、新しい母親を迎える。母は音楽家を目指したが、演奏会を開くことはできず、一人アパートで死んだ。
母はなぜ父と離婚したのか。父は平凡が一番幸福と言う。母は毎日ヴァイオリンを練習していた。指先はつぶれ顎は真っ赤。芸術に対する考え方が違う二人はなぜ結婚したのか。自分は母を美化しているのか。亡母を知る人びとを訪ねる。
母の手紙にはいつも、アスハルトの道を歩くな、とあった。砂浜は歩きにくいが、うしろをふりかえれば、自分の足あとが一つ一つ残っている、と。
勝呂は子どもの入院費もままならない。妻は父に金を借りよう、と言う。虚しい口論、妻を撲ろうとしたが、撲れない。「彼はうつむいて母の死に顔を思いうかべた」。
亡母の思い出を綴った作品6篇と共に単行本化。遠藤の家庭事情が基になっているものの、事実とは少し違うし、それぞれの作品にも食い違いがある。
11.27 高橋輝次さんから新著『古本愛好家の読書日録』(論創社)を送っていただく。お礼の電話。ここ数年、1年1冊のペースで自著を出版し、他の人の出版・編集も手伝う。帯に「コロナ禍にめげない古書店めぐり」とある。
午後、ギャラリー島田「石井一男展」と「須飼秀和展」。スタッフ・キリさんとしばし世間話。
元町事務局に原稿持参。諏訪山ゆかりの江戸時代俳人と昭和の作家のこと。文学史上ほぼ無名の人たち。
〈花森書林〉吉岡充個展最終日、市役所の花時計スケッチから帰ってこられた吉岡さんを紹介いただく。元町通4丁目山側にできた古本屋さん〈本の栞〉に寄る。元町周辺に古本屋さんがどんどん集まってきている。
(平野)