2015年9月17日木曜日

枯草の根 三色の家 


 『枯草の根 三色の家 ほか一篇  陳舜臣全集第二十一巻』 講談社 1988年刊

 陳舜臣のミステリー3篇。いずれも中国人の陶展文が探偵役。

「枯草の根」はデビュー作品(1961年)、江戸川乱歩賞受賞。神戸の老華僑が自室で殺される。アパート経営と金貸しをしていた。元は中国で銀行員だった。この老人と碁敵ならぬ中国象棋敵の陶が事件を解決する。陶は海岸通のオフィスビル内で大衆中華料理店を経営、漢方医であり、拳法の達人、50歳、学生時代に日本に留学、中国では情報関係の仕事をしていたらしい。事件には地方政治家、華僑、中国人の大実業家らが絡み、戦前の植民地時代の歴史が背景にある。

「三色の家」1962年)は若き日の陶が登場。陳が小学5年生から暮らした家を舞台にする。1階が赤煉瓦、2階が白いモルタル、3階は先の住人の屋号を隠すために青ペンキのトタンで覆われていた。小説では華僑が経営する海産物問屋。昭和8年陶が東京の大学を卒業して帰国準備中、海産物問屋の跡取りである同級生から、父親が急死したと呼ばれる。陶が到着後、父親の信頼篤いコックが殺される。同級生の実妹、異母兄、他の使用人たち、近所の取引先、それに特高が怪しい行動を起こす。

「虹の舞台」1973年)は、北野の異人館街でのインド人宝石商殺人事件。戦前のインド独立運動闘士の遺産、色と欲、そして差別と貧困という問題もある。

 いずれもトリックや謎解きがあるが、陳舜臣は「歴史と人間」を描いている。

 稲畑耕一郎の解説を読むと、陳はデビューしたばかりの頃、既に『阿片戦争』の資料・調査を始めている。

 新聞広告に『阿片戦争』新装版(講談社文庫、全4巻のうち1.2巻)が出ていた。
 陳作品は品切が多いので、少しでも本屋の棚に作品が増えることを願う。特にミステリーはほとんど品切で、本書も図書館で借りている。

(平野)