2015年9月24日木曜日

死の淵より


 高見順 『死の淵より』 講談社文芸文庫 19932月刊

 詩集。単行本は196410月刊。第17回野間文芸賞受賞。

 年譜を見る。高見は、4639歳のとき胃潰瘍で倒れ、48年胸部疾患で入院・転地療養、52年ノイローゼ、63年食道がん手術、64年(本書単行本刊)再入院・手術。653月手術、8月死去。この間、小説、評論、詩を発表し、数々の文学賞を受けた。ペンクラブ代表、政治運動、芥川賞選考委員、日本近代文学館設立……、走り続けてきた。

《食道ガンの手術は去年の十月九日のことだから早くも八ヵ月たった。この八ヵ月の間に私が書きえたもの、これがすべてである。まだ小説は書けない。気力の持続が不可能だからである。詩なら書ける――と言うと詩はラクなようだが、ほんとは詩のほうが気力を要する。(中略、入院中メモをし、退院後書いた。大手術で、爪にそのショックが残った)
「死の淵より」という題の詩をひとつ書こうと思ったのだが、できなかった。できたら、それを全体の詩群の題にしようと思っていた。それはできなかったのだが、全体の題に残すことにした。》

《 死者の爪
つめたい煉瓦の上に
蔦がのびる
夜の底に
時間が重くつもり
死者の爪がのびる 》

 手術後の「爪」について高見は、「爪にガクンとあとが残り、それが爪がのびるとともに消えるのに半年近くかかった」と書いている。
 もうひとつ、「魂よ」の一部だけ。

《 魂よ
この際だからほんとのことを言うが
おまえより食道のほうが
私にとってはずっと貴重だったのだ
食道が失われた今それがはっきり分った
今だったらどっちかを選べと言われたら
おまえ 魂を売り渡していたろう (後略) 》
 
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(平野)
 トンカさんで拙著読者からのお手紙をいただきました。柏田さん、森さん、海文堂のお客さんでありました。本の感想と懐かしい話を書いてくださっています。ありがとうございます。