■ 『ほんまに』〈陳舜臣〉より(1)
千鳥足純生 「陳舜臣のミステリ 神戸の今昔」
〈古書うみねこ堂書林〉店主にして探偵小説研究家。陳舜臣の作品から『柊の館』と『虹の舞台』を解説。陳舜臣と会ったことがあるそう。初回は「横溝正史生誕地碑」建立の時、2度目は神戸文学館の企画展「探偵小説発祥の街 神戸」準備で。
《……氏のミステリ作品の数多くは新刊書店の棚から消えて久しい。そのすべてとは言わないが、せめてここに書いた『柊の館』や『虹の舞台』を含む名高い作品はいつでも読めるようにしていただきたいと思っているのは筆者だけではないだろう。》
まちづくりコンサルタント。陳舜臣が『枯草の根』と『三色の家』に描いた神戸のまちをたどり、今残る痕跡を訪ねる。
両作品とも中国人・陶展文が主人公。陳舜臣が小学生時代に住んでいた家が「三色の家」で、栄町通と海岸通の中間「内海岸」と呼ばれる地域にあった。海産物の問屋が並び、潮の香りを漂わせていた。今は通称「乙仲通」。
小説の時代は昭和8年。陶は東京での留学生活を終え帰国する準備をしていた。神戸の友人から父親が死んだという連絡が入る。
《明治初期の開港当初の神戸港は、メリケン波止場や海岸通付近が中心であり、中小の貿易会社や流通関係の施設群が海岸通周辺に多く立地していた。『三色の家』では、この時代の「匂い」が色濃く表現されており、ちょっと古手の神戸市民の多くが知っている港の匂いを思い出させてくれる。》
『枯草の根』の時代は昭和36年頃。陶は海岸通の事務所ビル内の中華料理店店主、漢方医。武術も教えている。ビルのモデル「商船三井ビル」、穴門筋や京町筋、海岸通のあちこちを紹介する。保存運動も虚しく解体されてしまった建物が多い。今も近代建築保存・保全の運動は続いている。
それぞれの時代の地図・写真も掲載し、《昭和初期や高度成長期の神戸を生きた陳舜臣の残り香があるまち》を再現してくれる。
(平野)