2015年12月24日木曜日

『ほんまに』連載(2)


 『ほんまに』連載から(2

林哲夫 「パリ古本紀行 ゴッホ村の古本屋」

 画家で古本愛好家、装幀家、著書多数。
 パリ滞在中、林はゴッホ村(オーヴェール・シュル・オワーズ、パリから鉄道で40分ほど)に古本屋があると教えられて、「むらむらット行きたくなった」。観光客がいっぱいの場所は敬遠しているのだが、

《しかーし、古本屋と聞いては話は違う。しかもただの古本屋ではなく、使わなくなった貨物列車に本を並べているというではないか。出かけないわけにはいかないだろう。》

 10月、木々は黄葉し、風は冷たい。駅のそばに「ラ・カヴェルヌ・オ・リーヴル(本の洞窟)」という看板、煉瓦の建物。古本屋が開くまで、ゴッホゆかりの場所をまわる。ゴッホ兄弟の墓にも詣でた。

《季節が巡れば、墓地の周りにはゴッホの絵の通りの麦畑が広がるのだろう。むろん十月に麦が繁っているはずもなく、耕された大地だけが露出していた。視界の果てで白い鳥がまばらに飛び立つ。なんだかんだケチをつけても、感慨なしとは言えない。どんな必然か、あるいは偶然があって、ゴッホはこんな辺鄙な村であれほど類いまれな絵を描いた……描かねばならなかったのだろう?》

「本の洞窟」に入る。入口脇にペーパーバックや雑本、煉瓦倉庫の中には革装の本、ショーケースに稀覯本。

《本格的な古書店の顔つきだ。本で溢れる倉庫の端まで行くと、噂通り、貨車が連結されている。郵便車なのか何なのか、元から備わっている仕切り棚をそのまま本棚として使っており、ちょっと他では見られない光景だろう。このワゴンだけでもわざわざゴッホ村まで足を伸ばした甲斐があった。》

 ところが、古本強者の「触角がピピッと動かない」。それにどの本にも値段表示がない。店の人間の姿がない。「物足りない気持ち」で洞窟から出た。駅前の道路は乗用車と観光バスで大渋滞、パン屋には長い行列。

《世界中からこれだけの人を集めているのだ。本の洞窟ももう少し商売熱心なら、それ相応の成功が約束されているはずなのに、惜しい、じつに惜しいなあ。後ろ髪を引かれながらパリへ戻る列車を待った。》

「本の洞窟」のことは林ブログで。
http://sumus2013.exblog.jp/24561781/


佐藤ジュンコ 「月刊佐藤純子 新潟店番留守番号」

元書店員、現在イラストレーター、仙台在住。著書に『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』、最相葉月著『辛口サイショーの人生案内』ではイラスト担当(いずれも2015年ミシマ社刊)。

イラストエッセイをどう紹介しよう。9月に新潟市の北書店で留守番・店番したときのこと。店主は佐渡に出張。

(平野)またおバカ話です。ジュンコさんは私の高校時代の3番目の初恋の人と同姓同名同漢字で、書店員時代お名前を知って勝手に親近感を持って『ほんまに』第14号に原稿依頼しました。