トンカ書店で開催中の「詩人の本棚」展。昨年逝去された詩人の蔵書の一部約2000冊を展示即売中。トンカさんは500円均一で提供。購買者には特別冊子進呈。
■ 村上菊一郎編 『佛蘭西詩集』 靑磁社
1943(昭和18)年1月
私が買ったのは普及版(B6判2圓50銭)。特装版(A5判5圓)も同時発行された。同社は菱山修三編纂『續佛蘭西詩集』も出した。
高村光太郎 午後の時 エミイル・ヱ゛ルハアラン
小林秀雄 酩酊船 アルチュル・ランボオ
堀辰雄 窓 ライナア・マリア・リルケ
菱山修三 海邊の墓地 ポオル・ヴァレリイ
三好達治 祝祈禱 シャルル・ボオドレエル
堀口大學 知られぬ海 ジュウル・シュペルヴィエル 其他
村上菊一郎 ランボオ詩鈔 アルチュル・ランボオ
山内義雄 散文詩 マルセル・プルウスト
「編纂者の言葉」より
フランス詩の鳥瞰的なアンソロジーでも系統的な紹介でもない、と断っている。
《偏えに、詩を愛し語感に敏なる諸家の訳詩の美しさを、更めて読者に味到して貰いたかつたからに他ならぬ。訳詩厳密な意味では恐らく不可能な仕事に相違ない。しかし、さうかといつて、意味だけを汲んだ安易な訳詩が許されていい道理はない。原著者に対する親近の情と詩精神への熱愛の念とが、能く原詩の格調を見事な日本語に移して、本然の詩の姿にまで還元さえ得るのである。生来の詩人でなければ出来ないところに訳詩の大きな秘鑰がある。(後略)》(原文は旧字旧かな)
小林、三好、菱山の訳詩は既に絶版になっていた。高村訳は未発表作品。堀口訳は単行本未掲載。堀訳はリルケがフランス語で書いてパリで出版したもの。
《本書が戦時下日本の詩壇に一つの地の糧ともなれば幸甚これに過ぎない。》
ヴァレリーの「海辺の墓地」は、堀辰雄が「風立ちぬ」で訳した「風立ちぬ、いざ生きめやも」のフレーズで有名。長い詩の最後の一節。
菱山訳。
《風が起こる……いまこそ強く生きなければならぬ!大気は私の書物を開き、また閉ざす、
繽紛として散る波濤はいさんで岩々から迸る!
飛べ、まばゆいばかりの本の頁!
破れ、波濤よ! 打ち破れ、躍り立つ波がしらで、
すなどりの帆船の行きかふこのしづかな甍を!》
(平野)
3月14日「朝日歌壇」、長野県沓掛さんの短歌。《今朝もまた本の息吹を聴きながら荷を解くときの本屋の冥利》