■ 土方正志 『震災編集者 東北のちいさな出版社〈荒蝦夷〉の5年間』 河出書房新社 1600円+税
プロローグ 2011年
第1章
被災地の出版社 2012年3月~第2章 〈声〉を編む 2013年3月~
第3章 生きるための本の力 2013年9月~
第4章 底なしの日々 2014年3月~
第5章 記録を残し、記憶を継ぐ 2014年9」月~
第6章 〈被災〉の未来 2015年3月~
エピローグ 2016年
仙台の出版社〈荒蝦夷(あらえみし)〉代表。1962年北海道生まれ、ライター、編集者を経て2005年〈荒蝦夷〉設立。
東日本大震災後、災害現場の取材経験が豊富な土方に原稿依頼がいくつもきた。拒否した。避難生活のうえ、関係者の安否確認が続いていた。それに経営者として廃業を考えざるを得ない状態で、取材どころではなかった。しかし、旧知の編集者は納得しない。「全国の被災地を取材してきたあなたが書かないでどうする、いままでのあなたの仕事はなんだったのか」
躊躇する土方に向かって編集者はさらに言う。
「あなたは取材者じゃないんだ、被災者なんだ、被災地の生活者なんだ、取材なんてしなくてもいい、全国の被災地を見てきたあなたが自ら被災者となっていまなにを思うのか、それを書くだけでいいじゃないか、それがあなたの役目じゃないか」
《……彼ははっきりと私を責めていた。書こうと思った。》
もうひとりの編集者が言った。被災地のメディアが災害時にいかに対処したかの本はあるが、「被災地の出版社がなにを為し得たか、為し得なかったかの本はない」。
〈荒蝦夷〉は地方の小さな出版社で、新聞社や放送局のような機動性もドラマもない。
《……とはいえ、いつどこでどんな立場の人間が〈被災者〉となるかわからない、そのとき被災地域の出版人はなにを思うのか、なにを為すべきなのか。私たちの経験がすべてとはとてもいえないまでも、いわば「明日の被災地」のためのテストケースになればいいのではないか。そう思った。》
出版人として、本を作らなければならない、取材しなければならない、本を売らなければならない……。3.11以降〈荒蝦夷〉が版元となって刊行した雑誌・書籍は41点、編集を担当して他の出版社から出たものは11点。それに土方自身が雑誌・新聞に寄稿している。被災地取材だけではなく、講演やイベントで全国に出かける。多忙の一言では片付けられないだろう。「エピローグ 2016年」で個人的なトラブルを少し書いているが、私たちはその苦労を想像するしかない。なぜ書かなかったのか?
《……おそらく書くことによってへこたれたくなかったのだと、弱音を吐きたくなかったのだといまにして思う。(後略)》
表紙にハードボイルド〈荒蝦夷〉が写っている。
(平野)
海文堂のことを何度も書いてくれている。こちらの一方的な事情で取り引きが終焉したのに、この本を売ることもできないのに。申し訳ない。しかも神戸では今年の〈3.11〉は呑み会を計画している。