2016年3月29日火曜日

B面昭和史


 半藤一利 『B面昭和史 19261945』 平凡社 1800円+税
 

半藤は『昭和史』(同社、2004年)で、政治家や軍人を中心に戦争に突き進んでいった歴史をたどり、歴史の教訓に学ばなければならないと説いた。

……昭和史全体を見てきて結論としてひとことで言えば、政治的指導者も軍事的指導者も、日本をリードしてきた人々は、なんと根拠なき自己過信に陥っていたことか、ということでしょうか。(中略)そして、その結果まずくいった時の底知れぬ無責任です。今日の日本人にも同じことが多く見られて、別に昭和史、戦前史というだけでなく、現代の教訓でもあるようですが。》

 本書では、歴史上の出来事を音楽レコード盤になぞらえ、昭和史の表舞台=政治・経済・軍事・外交をA面、その裏の「民草の生きるつつましやかな日々」をB面とする。そのB面=庶民の日常の暮らし、流行、娯楽、日記や詩歌句などに焦点をあてて、国家と国民の動きを検証する。

……わたくしたち民草がどのように時勢の動きに流され、何をそのときどきで考えていたか、つまり戦争への過程を昭和史から知ることが、平和でありつづけるための大事な日常的努力ではないかと思われるのです。》

 指導者だけで戦争は出来ない、庶民がその気になったのは事実。そして、多くの庶民が犠牲になった。責任者はいるのか、いないのか?
 昭和3年、西條八十作詞で流行した歌が「東京行進曲」。「昔恋しい銀座の柳~」(作曲・中山晋平、歌・佐藤千夜子)。菊池寛原作の小説が溝口健二監督で映画化され、その主題歌。半藤は、八十を詩人としても流行歌作詞者としても評価する。

……時代の尖端すなわち昭和の初めのモダンな時代相を鋭敏な感受性でキャッチしている。》

「銀座の柳」「ジャズ」「リキュール」「ダンサー」「ラッシュアワー」「地下鉄」「シネマ」……。モダンガール・モダンボーイは都会の生活を楽しんでいた。アムステルダムオリンピックで日本人選手が活躍する。平和で華やかに見える。
 昭和36月軍部による張作霖爆殺事件で険悪だった日中関係はさらに悪化。4年、ウォール街の株大暴落から世界大恐慌。大正末期からの不景気は継続しており、大学卒でも就職難、東北農村では女性の身売り。労働者のストが続発するが、政治は与野党対立。ロンドン海軍軍縮会議をめぐってますます軍部が政治に関与してくる。中国では国家統一の機運が高まり、日本にとっては「満蒙の危機」。69月満州事変。新聞が「雪崩をうつようにして陸軍の応援団」となり、ラジオが臨時ニュースで戦況を伝える。

……戦争が始まると、国民はいっぺんに集団催眠にかかったように熱烈に軍部を支持するようになった。》

 長い戦争が始まる。
(平野)