■ 巷に雨の降る如く
ヴェルレーヌの詩「われの心に涙ふる」は、詩集『言葉なきロオマンス』(20篇、1874年)中の「忘れた小曲」(わすられた?)の一部。堀口訳『ヴェルレエヌ詩抄』(第一書房、1928年)にも収録された。「詩抄」は訳し直し、体裁を変え、版を重ねた。1948年、堀口は『ヴェルレエヌ詩集』(新潮社)で、詩集の原題を「無言の戀歌」と改め、新訳。その後も改訳、新字新仮名遣いに移行。
ヴェルレーヌは「忘れた小曲」で他の人の詩を題名やエピグラフに用いている。「われの心に涙ふる」は「その三」、アルチュール・ランボーの詩が冒頭に添えられている。
その三
雨はしとしとと市にふる。 アルチュール・ランボー
かくも心ににじみ入る
このかなしみは何やらん?
やさしき雨の響きは
地上にも屋上にも!
何事ぞ! 裏切りもなきにあらずや?
恋もなく恨みもなきに
わが心かくもかなし。
『堀口大學全集 3』(小澤書店 1982年)より
『言葉なきロオマンス』は、1872から73年ヴェルレーヌがランボーと旅をし、ベルギー、ロンドン滞在中の作品。ヴェルレーヌはこの詩集をランボーに捧げるつもりだった。しかし、73年6月ヴェルレーヌがランボーに発砲して逮捕される。詩集出版はロンドンでもパリでも断わられ、74年3月に自費出版で世に出た。ヴェルレーヌはまだ獄中だった。
(平野)ヴェルレーヌが引用しているランボーの詩文はどの詩からなのか(手紙の文章なのか?)、私は探し出せていません。
巷に雨の降るごとく
わが心にも涙ふる。かくも心ににじみ入る
このかなしみは何やらん?
やるせなき心のために
おお、雨の歌よ!やさしき雨の響きは
地上にも屋上にも!
消えも入りなん心の奥に
ゆえなきに雨は涙す。何事ぞ! 裏切りもなきにあらずや?
この喪そのゆえの知られず。
ゆえにしれぬかなしみぞ
げにこよなくも堪えがたし。恋もなく恨みもなきに
わが心かくもかなし。
『堀口大學全集 3』(小澤書店 1982年)より
(平野)ヴェルレーヌが引用しているランボーの詩文はどの詩からなのか(手紙の文章なのか?)、私は探し出せていません。