2016年6月14日火曜日

まっ直に本を売る


 石橋毅史 『まっ()に本を売る ラディカルな出版「直取引」の方法』 苦楽堂 1800円+税
 

『これからの本屋』(書肆汽水域)、『HAB Vol.2 本と流通』(H.A Bookstore)など本の販売流通に関する出版が続いている。ちょっと前なら〈業界本〉で地味に本棚に並んでいたジャンル。新刊本屋・古書店が積極的に販売してはる。業界は「出版不況」と言われ、出版社や本屋が廃業し、取次会社まで倒産する。一方でアマゾンなどネット販売の力は大きくなっている。書店員の労働条件は厳しい。でも、個人で出版や本屋を始めたい人が多くいる。
 本書は2001年に創業した出版社〈トランスビュー〉に取材、その理念と方法を詳しく紹介する。「直取引」という方式。創業以来23人の人員で続けてきた。主に人文・社会系の本を出版、2003年池田晶子『14歳からの哲学』がベストセラーになり、現在も増刷している。
 流通の卸し問屋を出版業界では取次会社と言い、出版社の本を全国の本屋に送る、返品を出版社に返す、その物流とお金の精算を受け持つ。取次会社が数多くの本と雑誌を毎日全国の本屋に届けている。重要な役割を果しているとともに、その分とても大きな力を持っている。物流と金融を支配していると言える。業界の慣習もあって、老舗・大手出版社が有利で新しい出版社の参入が難しい、小さな本屋や地方の本屋に売れ行き良好書が入りにくい、また個人経営本屋の新規取り引きについて金銭的負担が大きい、などの問題がある。注文品入荷が遅い、希望数が入らない、送品返品過剰など業界の問題点をすべて押し付けられているような立場でもある。
〈トランスビュー〉は基本的に取次会社を通さず本屋に直接納品し、精算する。本屋の利益を増やすことを第一に考えている。当初70%卸しだったが、現在は68%。取次会社経由(おおよそ78%くらい、個別の取り引き条件がいろいろある)よりも安く卸す、本屋が希望する部数を納品する、注文はすぐに出荷する、もちろん返品可能。送料は出荷・返品それぞれ元払い。本屋は経費削減で返品を抑える、ということは当然注文部数を慎重に考える。売れたらまた注文すればよい。業界の返品率は30%後半から40%(これを超えることもしばしば)だが、〈トランスビュー〉は10%台。
 新しく出版社を志す人、本屋を開きたい人に、こんなやり方もある、という紹介。また、〈トランスビュー〉は他の出版社の「取引代行」業務も行っている。受注、流通、精算業務を請け負い、その実費をもらう。本書の出版元〈苦楽堂〉もこの方式を使っている。
 業界には元々「直」の出版社があるし、〈トランスビュー〉方式にならっている出版社もある。既存の出版社でも「直」取引をしてくれるところもある(条件はさまざま)。本屋も「直」中心でしいれている店もある。取り引き条件が悪くても「直」で新本を仕入れる古本屋もある。これからも出版・流通・販売で新しいやり方が生まれるかもしれない。本を作ること、売ることに情熱を傾けて努力している人たちがいる。
 著者は1970年東京生まれ。出版社営業マン、業界新聞編集者を経て、フリーライター。著書に、『「本屋」は死なない』(新潮社)、『口笛を吹きながら本を売る――柴田信、最終授業』(晶文社)。自身の経験を織りまぜて出版流通・販売について考える。

 装幀 原拓郎  装画 吉野有里子
(平野) 
 海文堂は「直」を積極的にしていた。元々海事書は専門的すぎて少部数出版、販売条件は昔から高正味・買い切りながら、確実に売れる分野。海文堂にしかない、ということが「売り」になる。