■ 高良勉編 『山之口貘詩集』 岩波文庫 640円+税
岩波文庫が近現代詩集を出してくれていて、ありがたい、うれしい。
山之口貘については当ブログで何度か紹介している。1903年沖縄県那覇区生まれ、63年胃ガンのため逝去。貧乏詩人、放浪詩人と呼ばれ、詩人仲間に愛された。底辺を体験した視点からわかりやすい言葉でユーモアいっぱいに、社会の常識を風刺し家庭生活を送り沖縄を思って詠った。1つの詩に100枚、200枚の推敲を重ね、深く考えた。
人は米を食っている
ぼくの名とおなじ名の
貘という獣は
夢を食うという
羊は紙を食い
南京虫は血を吸いにくる
人にはまた
人を食いに来る人や人を食いに出掛ける人もある
そうかとおもうと琉球には
うむまあ木という木がある
木としての器量はよくないが詩人みたいな木なんだ
いつも墓場に立っていて
そこに来ては泣きくずれる
かなしい声や涙で育つという
うむまあ木という風変わりな木もある
《貧乏をも笑い飛ばした貘の詩は、物質的な豊かさ中心の思考法で行き詰まり、貧富の差も拡大していく現代にあって、現実に屈服しない明るい勇気を与えてくれる。貘の厳しい推敲から生れた平易な表現の詩は、読者に大きく開かれている。》
(平野)
「ある家庭」という詩。夫人が愚痴る。ラジオもテレビもストーブも……も、何にもない、こんな家いまどきどこにもない、と。
《……/亭主はそこで口をつぐみ/あたりを見廻したりしているのだが/こんな家でも女房が文化的なので/ないものにかわって/なにかと間に合っているのだ》
文化的女房。