■ 池川玲子 『ヌードと愛国』 講談社現代新書 2014.10月刊 800円+税
1959年今治市生まれ、実践女子大学、東京女子大学、日本女子大学で非常勤講師。専門は日本近現代女性史。著書、『「帝国」の映画監督 坂根田鶴子「開拓の花嫁」・一九四三年・満映』(吉川弘文館)他。
本書では、絵画、彫刻、映画、写真、コミック……など、芸術作品からサブカルまで大量に生み出される「ヌード」について考察。日本近現代文化史で、「ヌード」は「不思議に似通った衣」をまとっていることに気づく。「『日本』をまとったヌード」という存在。
目次
はじめに第一章 デッサン館の秘密 智恵子の「リアルすぎるヌード」伝説
第二章 Yの悲劇 「夢二式美人」はなぜ脱いだのか?
第三章 そして海女もいなくなった 日本宣伝映画に仕組まれたヌード
第四章 男には向かない?職業 満洲移民プロパガンダ映画と「乳房」
第五章 ミニスカどころじゃないポリス 占領と婦人警官のヌード
第六章 智恵子少々 冷戦下の反米民族主義ヌード
第七章 資本の国のアリス 七〇年代パルコの「手ブラ」ポスター
あとがき
第一章の「智恵子」は「智恵子抄」の高村智恵子。画学生時代に描いた人物デッサン=男性ヌードについての“伝説”から。
日本の「ヌード」は、「欧米文化を受けとめた、日本という国家の胎から生れた」。
明治政府は西欧世界に追いつくために、近代化政策を推進した。国境の画定、国民の身分の平等化と移動の自由、自由に移動する労働力に支えられた産業社会、徴兵制。男女の区分、民族の区分が組み合わされ、国民を統合するために愛国心を鼓舞する。建国神話、国旗、国歌がつくられる。芸術も近代国家の指標のひとつ。西洋画には神話や歴史的事件を描く歴史画の伝統がある。そこにはさまざまなポーズの人間が描かれる。訓練として人体デッサンが重視される。当然「ヌード」も。
近代日本で最初に描かれた「ヌード」は1983年の黒田清輝《朝妝(ちょうしょう)》。
……第四回内国勧業博覧会に展示された《朝妝》の前で、観客たちは、くすくすと忍び笑いをもらした。裸を芸術として鑑賞するというような文化的素地と無縁だった当時の日本人にとって、この絵は、卑猥でおかしみをさそう「笑い絵」=春画以外のものではありえなかったのだ(宮下規久朗『刺青とヌードの美術史』)。……
「ヌード」をめぐって論争がおき、芸術としての「ヌード」が定着する。1900年、黒田がパリ万博に出品した「ヌード」《智・感・情》(1897~1899年)は銀賞を獲得する。
日本近現代史のなかで生み出された7つの「ヌード」から、それぞれの「時代」と「創り手の動機」を解き明かす。「ヌード」は「時代」にどう影響し、影響されてきたのか。国家の近代化、軍国化、民族主義、資本主義経済、フェミニズム……、「ヌード」を通して日本近現代史を考える。
表紙の写真はカバーではなく「帯」。大束元「交通整理、銀座4丁目」(1948年頃)。交差点の交通整理の台上にヌードの女性が乗っかっている合成写真。第五章で登場。
(平野)