■ 神戸新聞文化部編 『名作を歩く ひょうごの近・現代文学』 のじぎく文庫 神戸新聞総合出版センター 1995年5月刊 (出版社在庫有りの表示だっが要確認)1456円+税
神戸新聞「日曜ひろば」連載(1993.4~94.12)。作品の舞台を訪ね、作品世界に入っていく。
神戸新聞の出版物でははずせないテーマ。2010年には『こうべ文学散歩』、13年『ひょうご文学散歩』など。
神戸Ⅰ
星を売る店 稲垣足穂 神戸・続神戸 西東三鬼 鼠 城山三郎
火垂るの墓 野坂昭如 風の歌を聴け 村上春樹 ……
神戸Ⅱ 白川渥 尾崎放哉 大岡昇平 久坂葉子 山崎豊子 ……
播磨 司馬遼太郎 佐多稲子 宮本百合子 平岩弓枝 泉鏡花 ……
阪神 佐藤愛子 井上靖 田辺聖子 水上勉 遠藤周作
但馬 宮本輝 新田次郎 高浜虚子 ……
淡路 高橋和巳 阿久悠 ……
丹波・三田 深尾須磨子 三好達治
新たな価値観確立を求めて 村上春樹『風の歌を聴け』
あまりに普通の公園だった。芦屋の、石造りの図書館の横にある小さな児童公園だ。具体的な名称は出てこないが、ただ、小説の中で、一番場所を特定しやすい、という理由だけで訪れた。「何という所ではない」ことを確認しに来たのかもしれない。(略)
芦屋を歩き、改めて思った。日本特有の村落的雰囲気とはかけ離れた土地で育ち、“故郷”に対して特別な愛着を持たないことが、村上独特の無国籍な雰囲気を生んだのではないだろうか。山と海にはさまれた坂の街。中心と周辺に関連性を見つけにくい街の造り。海岸通り、汚れた貨物船、汽笛、夕暮れ……土地にこだわらないことが独特の面白さだった日活映画の港町シリーズにも似て、不思議な魅力が生れたように思える。その淡々とした乾いた世界に、過ぎ去った時代への、彼自身の墓標を浮かび上がらせた。……
(平野)