■ 宮崎修二朗 『神戸文学史夜話』 天秤発行所 1964年(昭和39)11月刊
『天秤』は1950年創刊の同人誌。亜騎保、足立巻一ら。源流は1932年『青騎兵』。
宮崎(1922年生まれ)は元神戸新聞記者、「のじぎく文庫」初代編集長、神戸史学会代表。著書、『柳田國男・その原郷』(朝日選書、1978年)他多数。
目次
はじめに
明治一年から一〇年まで 宣教師がやって来た――キリスト教弾圧される――「七一雑報」が出た――讃美歌とミッションスクール――……明治一〇年から二〇年まで 「神戸新報」と菊水香水――明治初期の神戸の新聞――「風藻吟社」が営業開始――……
……
昭和二〇年から現在まで
明治、大正、昭和30年代まで10年ないし5年に区切って近代神戸文学史を追う。
……わが国において、一般に流布されている「日本文学史」だとか「明治大正文学史」といった風な、過去の中央集権的な文壇や出版界に集約されたかたちの「文学史」はありえても、地方の限られた地域を対象とした文学史はありにくいのではないか。(略、地方の資料は量的に乏しく歴史も浅い)これからわたくしがお話してまいります事柄は、すべてが点の羅列であって、一本の線として貫かれていない――いわば年代記の域をでない、とぼしい材料のよせ集めだということです。(略、それでも本にまとめるのは)ものごとのすべてが一つの形になるためには、とぼしい材料をまず集めること、さらに、細かな部分でも組み合わせられるものから、組み立ててゆこうという、初歩的な段階の作業のこころみが必要だと思ったからです。……
将来「人間の心のいとなみ」の歴史としてととのえられるであろう材料や事柄を集めておきたい、という使命感。
大正一三年一二月、須磨区中池下にあった竹中郁氏の家を事務所に「海港詩人倶楽部」が発足し、詩誌「羅針」が創刊されています。(略)
神戸らしい明るくエキゾチシズムと奇知に満ちた竹中氏の詩集「黄蜂と花粉」や山村氏の「おそはる」福原氏の「ボヘミア歌」が大正一五年には送り出されます。(「羅針」には萩原朔太郎や平野威馬雄らが執筆し、佐藤春夫や堀口大學が注目して批評)……文学の世界で神戸という風土がはじめて鮮やかに浮かびあがった時といえるのかもしれません。当時の文壇は新感覚派が風靡した時ですし、そこへ神戸という風土のもつ明るいエキゾチシズムを生来感覚につけた稲垣足穂、竹中郁という二人の新進の登場は当然文壇の注視をあつめるに十分だったのでしょう。……
(平野)