■ 『エディターシップ Vol.3』 特集「時代の岐路に立つ」 日本編集者学会発行 トランスビュー発売 2000円+税
○文芸誌「海」がめざしたもの 近藤信行
○「日本読書新聞」と混沌の六〇年代 井出彰
○世代を繫ぐ仕事 柳原一德
○戦時『FRONT』の東方社と戦後の平凡社 石塚純一
○私たちはいかにして「開かれた政府」を実現するか――秘密保護法時代に立ち向かう視点 山田健太
○日本でいちばん美しい本が生れる場所――美篶堂というサンクチュアリ 大槻慎二
○「物語」がはじまる場所――古川日出男といとうせいこうの近作を中心に 佐藤美奈子
○地方小出版の力(4) 港の人 里舘勇治 和賀正樹
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編集者とは何であったか、編集者はどうあるべきかを問う。編集にかかわるさまざまな仕事について、その過去と現在とを検証する。
私たちの年代の人間が、戦中あるいは戦後に読んできた中でいちばん共感したのは、第一次戦後はの人たちです。何といっても大きな苦しみを背負いながら、日本を考え、世界を考え、その中で文学の仕事をしてきた。これはやはり、見事なことだったと思います。(近藤)
今や、国民は日々の株価の高下落に一喜一憂し、価値の尺度はお金、お金……。出版物の売れゆきは下落の一途、良書の指針となる書評紙の役割は、尽きたように思える。しかし、それでも一方、二万人の読者はいる。そういうひ人たちがいるんだと、歯を喰いしばって現在も書評紙を創っている仲間がいる。六〇年代の古木よき時代を、ただ牧歌的になつかしんでいるのではない。二十一世紀の文化の核、柱は、活字、本によって思考され創られていかねばならないと、まだ考えている。(井出)
執筆者のみずのわ出版・柳原から送ってもらった。
「世代を繫ぐ仕事」は2013年9月28日に大阪芸術大学での同学会第4回大会講演を元にしたもの。地方の一人出版社の実情と、彼の出版理念を語った。
出版社は大小問わず「公器」なんですよ。うちの場合は出版「社」ではなくて出版「者」ではありますが。加えて、ウチのやっていることは出版社というより極小運動団体。それくらいの覚悟で仕事しています。
アベノミクスで株価が上るといって脳天気に喜んでいる馬鹿、福祉のために消費税は上げるべきだなんてしたり顔でぬかしとる馬鹿、東京五輪招致が成功してよかったとか何とか言って騒いどる大馬鹿者、そういう人種は、初めからこの業界に入ってはいけない。出版とは基本的に、社会の主流からはずれた商売です。「思想信条の自由」の問題ではありません。こんな極端なこと言うのは如何なものかと言う人もいますが、ここまで言わなければ通じないからこそ、あえて言わせて下さい。(略)
これから本にかかわって仕事をしていくという若い人たちに、どうしても伝えておきたいこと。最晩年の宮本常一が病床で発した言葉「ワシは必死の思いで仕事をしている」。それともう一つ、このおっさんええこと言うなと思ったひと言、「人のやり残したものに大事なものがある」。その時どきにあって、時代精神に対するアンチテーゼは常にぶつけ続けなければならない。その意味で、きわめて共時的であること、現代社会に対する問いかけであり、行動であること、出版とはそういう仕事です。知ってしまうことはしんどいこと、不幸なことではありますが、それが自身を鍛え、また自身を豊かにする。それゆえに、やり甲斐があり、かつ、誇り高い仕事であると思います。
(平野)