■ 『稲垣足穂詩集』 思潮社 現代詩文庫 1989年3月刊
シヤボン玉物語 香炉の煙 瓦斯燈物語 足穂と虚空 秋五話 ……
詩論・エッセイ 空の美と芸術に就いて 雲雀の世界 ギリシアと音楽 ……研究 悪魔学の魅力 西脇順三郎 稲垣足穂論 中野嘉一
解説 鈴木貞美 高橋睦郎
年譜
足穂の作品を〈詩〉と扱っていいのか?
読む者が〈詩〉と思えば、それでいいのでしょう。
「質屋のシヨーウインドー」
三角辻にはバアがあるバアへは毎晩少年が
少年は昼間は歯車の間で眠つてゐる
歯車は時計のなかに
時計はポケツトに
ポケツトはおじいさんの上衣に
おじいさんは靴みがき
靴みがきは毎日倉庫の横に
倉庫の上には夜がくる
おじいさんは歯車の間で眠つてゐる歯車は時計のなかに
時計はポケツトに
ポケツトは少年の上衣に
少年は初山滋の人形に似てゐる
人形に似た子は毎晩バアへ
バアは三角辻のまんなかに
或日椿事が持ち上つた
バアの少年がこなかつた倉庫の横に靴みがきがゐなかつた
時計は質屋へ入つてゐた
質屋はひろい路にある
ひろい路は星の夜だ
星の夜には明るい窓が
質屋の窓とはしやれてゐる