■ 『次の本へ』 苦楽堂編集・発行 トランスビュー発売 1800円+税
この本の使い方――まえがきに代えてより
「一冊は読んだ。でも、次にどんな本を読むといいのか、わからない」何人もの高校生、大学生から聞いた言葉です。いや、学生さんだけじゃないですね。社会人の方からもよく聞きます。(略)
本書は「この本を読もう」という類の本ではない。どうすれば「自分に合った本と出合うことができる」のかというヒントになる。苦楽堂社主がこれまでの仕事やプライベートで出会った人たち84人に「次の本との出合い」の経験を寄稿してもらった。
友だち・家族・「大人の人」を通じて、著者が好きで、本屋や図書館で、タイトルで、興味がどんどん深まって、……。
索引の他に〈「次の本」に出合うきっかけ別インデックス〉が設けられている。それによると、花房観音は「オリジナルへの興味」という分類にあたる。
桐野夏生『IN』に登場する小説「無垢人」のモデル・島尾敏雄『死の棘』。
『IN』は女性作家が編集者と不倫関係になり、その別れを「恋愛の抹殺」として小説にする。題材にした「無垢人」に関わった人たちに取材するが、それは自分の恋愛を辿ることでもある。
『死の棘』は作家である夫が不倫に走り、家庭崩壊。妻は精神を病む。家庭が壮絶・醜悪な修羅場となる。
『IN』も『死の棘』も、怖い小説だ。けれど読み終わる度に、人と人とが本気で全身全霊をかけてぶつかるその姿の純粋さが眩しくて、その尊さにひれ伏してしまいそうになる。すべてを剥き出しにして、獣のように求め叫びをあげる男と女は、恋愛の果てに突き進んだ者たちにしか足を踏み入れることのできない至高の美しい世界を知っているのだろう。……
若者がドロドロの恋愛を参考にしていいのだろうか。現実とはもっともっと醜いものであることも事実。
11.8記念トークで、北沢夏音は高校時代の苦い思い出から語った。担任の若い先生の心遣いがきっかけで読書発表をし、級友たちに心を開くことができたという体験。その「本」と「次の本」は、『蝿の王』と『漂流教室』。
彼らの読書のごくごく一部なのだが、84人それぞれが貴重な体験を語ってくれていて、彼らの人となりが伝わってくる。
本書は毎年1冊のペースで刊行予定。目標は紹介する本が千冊になるまで。本書の装幀・装画に使われているのは、青山大介「海文堂書店絵図」。
青山の仕掛けで「海文堂ありがとう!!」の言葉が隠されているのだが、そこがちょうど本体裏表紙左上部分になっている(下段)。こうなるように装幀してくれたのだと思う。なくなってしまった本屋への[愛]だと勝手に解釈して感謝申しあげます。
本書の販売現場にいることができない情けなさも感じつつ。
(平野)