■ 稲垣足穂 『青い箱と紅い骸骨』 角川書店 1972年(昭和47)10月刊
装幀 門田ヒロ嗣
全12篇、自選作品集。足穂の絵も4点。
表題作は『文科』(1931年)に掲載したものだが、同年『新青年』に発表した「びっくりしたお父さん」のヴァリアント作品。
山と海のあいだの斜面にその都会はあるが、山も西方になると急に低まって、起伏する無数の丘々の重なりになってしまう。……
[私]は、西方の丘々の靄や霧は「死んだ人々の変形したもの」だと思う。[私]はかつて東方の山裾にある学校に通っていて、そこの地理に詳しい。
……西方に較べると、もう本当の山懐に属している部分だから、そこから海まで狭くなって、傾斜も急なので、夕方など山際の高い煙突から吐き出された、白い、しめっぽい煙が、ずっと下方の人家のあたりまでただようてきて、風向きによると、数時間も各戸の庭や座敷を閉じこめてしまうことがある。……
[私]は久々に帰省して、東方の丘に出向いてみた。見覚えのある建物があり、「狐につままれた気がする目に逢った」ことを思い出す。
フカ汽船会社の別荘に招待された。舞踏会がいつの間にか当主の妹の葬式に。彼は妹の亡骸を抱いて踊る。
(平野)
11.2 神保町のワゴンで。