■ 野村恒彦 『探偵小説の街・神戸』 エレガントライフ(地方・小出版流通センター) 1600円+税
神戸在住、勤めのかたわら探偵小説評論。
本書は、生まれ育った街と「探偵小説」との密接な関係について。
第一章 探偵小説の揺籃期と神戸 江戸川乱歩『探偵小説四十年』、乱歩と横溝正史 他
第二章 「新青年」の時代 横溝初期作品、海野十三(じゅうざ/じゅうぞう)、山本禾太郎(かたろう/のぎたろう)、西田政治(まさじ)
第三章 「ぷろふいる」の時代 探偵雑誌「ぷろふいる」、神戸探偵倶楽部 他
第四章 「ぷろふいる」と神戸の作家たち 西田、山本、酒井嘉七、九鬼紫郎(九鬼澹)、戸田巽
第五章 関西探偵倶楽部
第六章 神戸探偵小説愛好會
第七章 神戸とミステリー(その一) 陳舜臣『枯草の根』、横溝『悪魔が来りて笛を吹く』、高木彬光『黒白の囮』 他
第八章 神戸とミステリー(その二) 多島斗志之『黒百合』、海野『蠅男』、松本清張『内海の輪』 他
あとがき
……
神戸は探偵小説の街である。
古くから港町として開け、海外との交流も数多くあった。そのせいであろうか、海外の探偵小説に出会う機会も多かったに相違ない。
学生時代に市内の古書店で海外の探偵小説を数多く見かけた。そのほとんどがペイパーバックであったが、なによりもそれらの本が古書店の書棚に並んでいることに違和感を覚えないどころか、かえって棚に見かけない方が不自然に思えたのであった。
……
外国人船員たちが読み捨てた雑誌や本が手に入れやすかった。愛好家・作家が多く生まれた。外国人が多く住む旧居留地や異人館などが身近にあり、外国航路の港町は“魔都”の雰囲気を醸し出した。
大阪にいた乱歩と正史、政治の関わりから、神戸が探偵小説史に名が出てくる。乱歩が東京に行き、正史も乱歩に誘われて行ってしまう。しかし、野村は探偵小説愛好の情熱が続いていたことを明らかにする。戦後もその流れは継承されていた。
陳舜臣は中国歴史小説で著名だが、デビュー作『枯草の根』は探偵小説、第七回江戸川乱歩賞受賞(1961年)。探偵役は中華料理店経営者・拳法の達人・漢方医の陶展文。
ストーリーは詳しく書けないが、野村は登場人物の個性、トリック、推理などを「見事」と評価する。舞台となった料理店の場所を訪ね歩いて推理するほか、書誌や同じ主人公が活躍する作品も紹介する。
野村は、探偵小説研究の他、2002年に横溝の生誕地に記念碑建立プロジェクトを立ち上げ04年に完成させた。07年には、神戸文学館の企画展「探偵小説発祥の地・神戸」に資料を提供。また、【海】の顧客でアドバイザー、イベント仕掛け人、PR紙誌レギュラー執筆者でもあった。
本書、閉店前の数日間だけ販売させてもらった。完売で入手できなかった。J堂で再会した。
◇ 日記 11月11日 月曜日
何回目か忘れるくらいの結婚記念日。
インパクト出版会Fさんから、『出版ニュース』担当コラムで【海】のことを取り上げた2回分のコピーを送っていただく。感謝。ひょっとして【海】は愛されていた?
【海】残務作業、本日をもって終了。大それた仕事じゃない。返品逆送品処理――取次会社が返品をとってくれない本について出版社に直接お願いする作業。各担当者が閉店前の大混乱のなか、事前に了解を取って返品していたので、ごく少量だった。わが同僚たちは、注文、販売、接客、それに返品、最後まで手を抜かなかった。みんな「プロ」だと改めて思う。
(平野)