■ 久住昌之 『食い意地クン』 新潮文庫 460円+税
マンガ家、エッセイスト。『孤独のグルメ』原作者。2004年二見書房刊。
……
俺は食欲に関しては、意外に淡泊なほうだと、自分では思っていた。
食いしん坊は、みっともないと思っていた。
食い物にこだわるやつは、浅ましい。グルメなんて嫌な野郎だ、と思っていた。
だからこそマンガになるのだ、なんてインタビューに答えていた。
ちょっと、偉そうだった。
俺、自分のことをわかってなかった。
かなり食い意地クンみたいですね、どうやら。
……
早食いでガツガツフガフガせわしない。子どもの頃母親が「もっとゆっくり食べなさい」と半分笑いながら言っていたのを、夢中で食べている息子のことを喜んでいると解釈していた。
ヨソの家で無理にゆっくり食べると、すぐに満腹になって残してしまう。帰り道でお腹がすく。
「生まれながらに恥かしいニッポンの私」が書く食エッセイ。
「焼肉」
焼肉屋では瓶ビール。
……
ジョッキなんて、あんな花瓶みたいに重いもの持って、焼肉と立ち向かえない。動きが鈍る。
あと、途中でご飯もらうから、その時、俺ウーロン茶に変えるし。焼肉には、絶対白いご飯。
(腹いっぱい食べて、店を出たとたん食い過ぎだとわかる)
満足とは焼肉のためにある言葉なり。
……
「ラーメン」
……
ラーメンは、出てきた熱いのをせわしなくフーフーズルズルやって食べるのが楽しい。
(静かな部屋で音を立てず行儀よく食べたらおいしくない。ラーメン屋のいろいろな音の中、活気の中で食べる)
この喧騒の中で、ラーメンをズルズルッと音を立てて、すすり食うのがウマイ。(略)
ひと口すする。ああ、そうそう。なにが「送」なのかわからないが、安堵と歓喜の笑みがこぼれる。何度確認しても飽きない味。もうあとは夢中だ。麺をすすり、スープをすする。
ふと気付くと、丼の底が透けるほどスープが少なくなっていて、かわりに心が満たされている。
……
「焼肉」「ラーメン」ときたら「カレーライス」。
カレーは「危険な食べ物」。
……
あの臭いには、食い意地を凶暴化させる何かがある。
空腹時に吸引すると食欲が瞬間沸騰する。
家でカレーライスをやると、絶対二皿以上食べる。腹が完全にいっぱいになるまで食べないと、納得できない。
……
家のカレーと店のカレーは「別物」。久住の舌にはいくつかの店のカレーの味が刷り込まれていて、いつでも思い出せる。
……
味を思い出すってヘンな感覚だ。手が届きそうで届かないような、もどかしさを伴う。
そういう店がある街に行くときは、家を出るときからそわそわしてしまう。
これを書きながら、あすの昼は絶対カレーライスと決めている俺がいる。
……
「カップヌードル」にもこだわる。
ノンフライ麺とか「本格派」はいらない。本格的なラーメンはラーメン屋で食べればよい。
……
カップごときにジタバタするな。カップラーメンは、カップラーメンならではの味がしたほうが潔くて素直においしい。
(日清食品のカップヌードルは発売当初フォークがついていた)
あれは「ヌードル」という外国チックな印象を強めるための、ダサイ作戦だったんだろうが、それがまた逆にインチキ臭い、おもちゃっぽい雰囲気を出していて「本格志向」の逆を行っていて楽しい。
……
カップヌードルをめぐる大学の同級生イノウエ君との思い出は切ない青春の1ページ。
◇ 日記 11月8日 金曜日
お母さんと【海】に来てくれていたクリクリおめめのMちゃん、いつも「こんにちは」と言ってくれるGF。商店街でお母さんにお会いしてお話。幼稚園の行き帰りに工事中の店の前で二人はしばらく立ち止まるそう。
その姿を想像して、おじさんの目と鼻は熱くなる。
「かいぶんどうがひっこしたんやったらついていこうよ」
おじさん、滂沱。
『ほんまに』15号、順調に原稿集合。
まだなんは~……。
もうひとつ、F店長対談のまとめ。
ゴローちゃん奮闘中。
(平野)