■ 木村俊介 『善き書店員』 ミシマ社 1800円+税
現役書店員6人にインタビューし、彼らの肉声だけで「善く働く」とは何かを伝える。
本書の目的。
いまの時代において「善く」働くとはなにかを、
肉声の中から探し、見つけ、考えながら丁寧に記録。
木村の興味。
ほんとうに一般的な、そこらへんで普通に働いているみたいな人たちが、具体的に体を動かしてきたうえで大事にするようになっていくなにがしかの「善さ」。
(その1)仙台の佐藤さん
1章 お腹はいっぱいにはならないけど、胸はいっぱいになったという仕事かな。
……
本屋のイメージって、好きな本を並べて、ちょこちょこ棚を整えてという感じかもしれませんが、ほぼ肉体労働ですよ。(腰痛持ち多い)優雅に「この本いいわね」なんて楽しんでポップを描いたりするのは勤務時間中はむずかしいですよね……。
(お客の問い合わせ対策のアンテナだけでなく)直接的には仕事に活きないかもしれない面でも、アンテナを張って、お店に置いてある本のよさを理解しておくというのは大事なように思います。いい本をいいかたちで並べる。お客さんに「このお店にきてよかったな」と思ってもらえることをみっちりしていきたいからそう思うんですね。(略)書店員の私は本を買って読む人にとっては、名前のない、顔も認識されない存在でしょう。でも、関われるのって幸福だな、と。そういう出会いの「もと」みたいになれたらいいなと思っています。
「開くための番人」のようになりたいなといつも思っているんです。「入っちゃだめだよ」と閉ざすのではなく、開く。本とお客さまをつなぐお手伝いです。
本屋の状況があまりよくないとか、本が売れないとかいう話ばかりがニュースにはなるけど、そうやって「本が人に届くという不思議で奇跡みたいなこと」は確実に起こっているんだからと思って、私自身としてはあんまりがっかりしないでやっています。だいじょうぶなんじゃないの、と。
私は基本的には本も本屋も好きなのでひとつひとつの業務がいとおしいんですが、肉体的にか精神的にかで調子が悪くてどんよりしている時には、たまにそんな本を運ぶ際の大事な一冊ずつが、「もの」に見えてしまうことがあるんです。そういう時には、いかんいかんと思っていながらも、よいしょお、どすんと少し雑に置いてしまう。そういう時には、反省します。一冊一冊に思いをこめすぎては仕事が終わらないのだけれど、でも、本をあつかうことへの尊厳は失っちゃだめだな、と。
書店員に関していわれていることの中には、「たいへんね、かわいそうに」なんてこともありますが、私は「かわいそうかもしれないけれど、けっこう楽しんでもいますよ」と感じています。ひょっとしたら利益にならないことばかりしているけれど、やっぱり人と会うのって楽しいですよ。お腹はいっぱいにはならないけど、胸はいっぱいになったな、しあわせだなとはよく思いますので。
書店員の楽しみは……いちばんは、人に本を届ける「あいだ」に立てるところにあるんじゃないでしょうか。(略)「本が好きだな」と思って集まってきている人たちの世界の中に、ほんの少しではあっても私には役割がある、というのがいいなと感じているんです。
……
本にまつわる思い出、学生時代、過去の仕事、書店員の業務、店外での活動についても。
(平野)