■ 木村俊介 『善き書店員』 ミシマ社 1800円+税
(その3)
熊本 長崎さん
5章 町の本屋の最高峰を目指す、という目標ができてからですよね、ほんの少しですけど、強くなれたかなと思っているのは。
熊本の老舗のひとりっ子。東京で学生生活、新宿の書店でアルバイト。青山の人気店に憧れた。2001年、実家の母上から連絡。経営が厳しい、父上体調不良。
帰る場所があっての勉強、店を引き継ぎ、維持発展していくための勉強、店がなくなったら意味がなくなると、大学を中退。
「家族と家業を守りたかった」
「店の再建」と一言で片付けてはいけないが、20歳そこそこの若者のご苦労は言い尽くせないでしょう。経営計画、融資、リニューアル、家族経営から企業に……、スタッフの交代も進んだ。見習うべき「町の本屋」に足を運び、品揃えや企画、それに「町の本屋の楽しさ」(間違いなら許して)を実感した。
……
スタッフの力が、現時点のうちでどのくらいの水準であるのかについては……正直なところ、ぼくも含めてまだまだ足りないところもあると思います。でも売り上げも着実に伸びている手応えはあります。まだまだではあるけれどもみんなでじっくりやっていければいいんじゃないかと考えていて、最終的には、心の部分で一緒にやりがいを感じてもらって、おもしろがって「仕事をやっていこう」と思ってもらうようになるのが理想です。
……
「敷居は低く、間口は広く、奥が深くて質の高い店を作ろう」がモットー。
丸の内 高頭さん
6章 さっきから仕事や仲間について「好きだった」という話ばかりたくさんしているように見えるのかもしれませんけれども、私にとって、書店員は好きだからこそ続けられた仕事なんです。
最初は青山の人気店。先輩(きびしい)に恵まれ、仕事の基本と面白さを知るが、倒産。続いて千葉を中心に展開する書店の新規店。ここも良いメンバーだったが、閉店で退社。現在は都心の超大型店。
……
(今の店に来る前は)「歯車」という言葉にいい印象をもっていませんでしたが、いまはちがいます。チームの中でそれぞれが決められた役割をまっとうすることで、お店がひとつの価値を出していくことができていくわけです。そういう仕事のやりかたの中で、いろいろな人に教わってきたことをちゃんと誰かに受け継いで、いままで関わってきた人たちに恩返しがしたいと思っているのですが、なかなかできていないんですけどね。……
本は残るものだけど、書店員の仕事はサービス業なので、かたちとしては残らないものだなとは思います。(かつて自分が手がけたフェアが話題になるなど)どこかで誰かにちょこっとでも残るものがあればそれでいいというものなのかな、私たちの仕事というのは……と感じたりします。
……
「本屋大賞」立ち上げから参加。第1回の時は倒産騒ぎで大賞作品を売る喜びは味わえなかったそう。
ジュンコ堂仙台ロフ子さん再登板
7章 プラスのことだけを見られていたらいいなとは思いながらも、現実はそれだけではないんですけど……ただ、いいことだって起きていることも、私はじかに見て知っているんですね。きちんとした本を手がけて、一冊入魂で届けようとして、本を作っている人たちがいることは事実として知っていますから、そういう本はちゃんと届けたいなと思っています。
最初のインタビューのあと体調を崩された。
木村さん
8章 普通の人に、「長く」話を聞いて記録するということ
……
コツや技術など、成功譚を聞くわけでもない。書店業界全体に通じる話でもない。ネタとして洗練された笑い話があるわけでもない。ただ、自分を等身大以上に見せようとせずに、こうとしか生きてこれなかった一回限りの道についてうかがっている時間は心が落ち着いたし、深いところで「書店員」という生きかたのなんたるかに触れられたような気がする。
仕事の方法論などとしてはとくにほかで活かせるわけではない、とてもせまい話ではある。しかし、精神的には深くまで、その人がほんとうに毎日一番切実に思っているところまで潜っていけたら、と考えていた。情報や報道としてあつかわれにくい話を深くまで掘り進めたところに、たいていは「善き者」として働きたいのだという思いがあったことには、あ、人の「ほんとうのところ」ってこういうものなのかもしれないな、と打たれた。そして、綺麗事のように思われるかもしれないけれど、そこまで「善さ」を求めている中にはどうしてもいつも、やめていった同僚への思いやいつまで続けられるかという話が混じってきたところからは、書店があぶないという数字上のデータを見るよりもむしろ業界全体が抱えているキズを現実的に感じさせられた。(書店員は)「かわいそうな人」として語られるべきでも、英雄視されるべき対象でもなく、そうしたデフォルメを省いて「まるごと」たいへんだったけどこうして歩んできたんだと丁寧に話している生きた人たちなのである。悩みも深いから、その合間の笑顔が余計まぶしく思える。そのまるごとの話の細やかさこそが、立場がちがってもいかにも時代を共有しているな、とほんとうに人にあったなという気にさせてくれた要素だったようにも思う。
……
長々と引用してしまった。現場から転んだ「元」は「現役」の皆さんに何も申し上げられない。本屋に行って本を買うこと、本を紹介していくことだけで堪忍してちょうだい。
木村俊介さん、ミシマ社のみなさん、ありがとう。
(平野)