■ 木村俊介 『善き書店員』 ミシマ社 1800円+税
(その2)
神保町 小山さん
2章 ほんとうに好きじゃなければやめたほうがいいよ、と年下の人間にいわざるをえない業界にはなっていますよね。
最初の書店はアルバイトで5年。大手チェーン店に正社員で12年、都内各地の店舗で店長。担当した店舗が経営悪化で「整理解雇」。
失業中、浴びるように読書し、他店を見て回る。業界の人たちの励ましで復帰せねばと思った。
現在は老舗の有名店、インタビュー時は入社半年ほどの頃。
店が大幅なリニューアル。読書人だけではなくごく普通のお客さんにとっても「いい棚」を考えている。楽しく働け、環境もよく、同僚のすごさに刺激されている。
目次に掲げた言葉のあと、こう語っている。
……なにかしらの思い入れがなければ、体を壊していくだけ。しかもこれから、労働環境はきびしくなっていくだろうなとは見えているわけですからね。個人的には、小さい甥っ子と姪っ子が安心して通える、しかも手作り感のある、機械的にただ並べたでけではないお店を作りたいなというのが目標なんですけど。
京都 堀部さん
3章 本や珈琲のようなものって、合理性だけを追求したらなくてもいい嗜好品ですけど、そのなくてもいいものがある世の中を考えたい。となると、自分の店だけ栄えればいい、ではなくなるんですよね。
……
(取材を受けると)「本という文化を守ること」についての話なんかをよく訊かれるのですが、じつはそんなことを考えて普段仕事をしているわけでもないんですよ。それよりもっと考えているのは、もうちょっとこの左京区がかっこいい町であってほしいというか、全国どこにでもある郊外と同じようになったら、つらいじゃないですか。買い物する店といえばショッピングセンターしか選択肢がなくなるなんて状況はきつい。
(普段の仕事のペース)だいたい週に五日働いて、二日は休みなんですが、その休みのうち一日は仕事に絡めた用事を入れています。朝の十時から夜の十時までの営業時間のあいだは店にいることも多くありますが、ただいるだけでも集中力ってなくなりますから、夕方の六時にあがることだってある。(一旦家に帰って、また仕事になることも。ファックス、資料、書類整理)うちはあつかう本の写真や説明文を割と丁寧にウェブに載せているので、そのキャプションを夜に二時間ぐらいかけて書いていることもある。それでも、一回帰ったらもう仕事という感じはしないから気持ちは楽ですよね。
(独立は考えていない。個人が新規参入できる世界ではない)与えられた立場で、工夫できるところに力を入れていこう、と。
……
広島 藤森さん
4章 私は広島のことが大好きで思い入れも強く、町の本屋を守ることには特別な使命感も持っていますが、でも、ちょっと……あのですね、こういう切実な気持ちを口に出して人に話すのって、たぶん、いまがはじめてなんじゃないかと思うんですよね。
平和や原爆問題の悲惨さを伝えるだけではなく、いまの日常がとても貴重なのだと伝えたい。
……
広島のかたがたのにぎわいやお店でのやりとりそのものが、平和を象徴しているとなっているほうが、ほんとうはそれがいちばん。店全体で、私たちがいまこういられることが、町の本屋としてここで商売を続けて、お客さまとやりとりできるということが、平和のあかしなんだということを、少なくともうちの従業員たちには自覚していてほしいんです。(略)普通の平和を守っていく、つらい思いをしたかたでもにこにことお店に入ってこられるみたいな感じですかね。
その使命感みたいなものは、普通にやっていたら本屋はつぶれるという状況があるから、余計にそれを意識しているかもしれませんね。
……
(平野)