■ 村山早紀 『ルリユール』 ポプラ社 1500円+税
“Reliure” 口をとんがらせてフランス語風発音トライ。これだけでしばらく遊べます。ヒマなので。
主人公・瑠璃。「瑠璃とルリユール」、早口言葉でも遊べます。
「空犬」さんの紹介で、読みたくなった。
伊勢英子の絵本『ルリユールおじさん』(講談社)で有名になった単語。
瑠璃の説明は司書をしているお母さんから聞いたこと。
……
元は本というものがまだ貴重品だった頃のヨーロッパで、糸で仮綴じされただけの本や、折りたたまれただけの未綴じ本(その頃ヨーロッパでは本はそんな形で売られてもいた)を購入したひとの依頼を受け、オーダーメイドで表紙をつけたり、古くなった本をまた新しく装幀し直したりする仕事のことだったらしい。その時代、その仕事についたひとびとの手によって、革の表紙に金箔を押したり、オリジナルの版画を挿入したりと、美しい本が競うように生まれていった。本はとても高価なもの、長い年月ののちも、子孫へと受け継がれる宝物であり、財産だった。いまもヨーロッパの街角には、昔のままに、その技術を守り伝えている、職人たちがいるそうだ。
……
瑠璃は13歳、父母、姉の4人暮らし。夏休みになって、おばあちゃんのところに先にやって来た。駅に着いてすぐ本屋で分厚い児童書(上下2冊)を買う。近所では品切れだった。瑠璃ちゃん、エライ!
おばあちゃんは一人で食堂を経営している。沖縄出身で、幽霊や妖怪と話ができる一族の末裔、瑠璃もその素質があるらしい。
この街に「ルリユール」の工房があるという噂。大きな屋敷に綺麗な外国人女性――魔法使いのような雰囲気の長い赤い髪の――が住んでいる。誰もはっきりとその場所を知らない。でも、お母さんが書いてくれた地図には「謎の屋敷」とある。
おばあちゃん、瑠璃が来る直前に階段から落ちて入院した。犬の次郎さんと留守番。おばあちゃんの病院に行って、次郎さんの世話をして、ご飯作って、家に電話するのも忘れて眠ってしまう。
瑠璃はいつの間にか人通りのない石畳の道を裸足で歩いていた。大きな屋敷の門、黒猫がしゃべる。庭に入る。美しい人が立っていた。
夢? 小さい頃夢遊病だった。
現実に戻って、お母さんの地図のとおり、坂の上に大きな屋敷があった。
「ルリユール黒猫工房 クラウディアが魔法で本を作ります」の看板。
ほんとうに魔法使い?
本を愛する人たちが彼女に本の修復を依頼する。
瑠璃は彼女にルリユールになりたいと申し出る。
「魔法じゃないんですか?」
「瑠璃ちゃん、具体的には何ができるようになりたいのかしら?」
「本を治す方法をいろいろ知りたいです。あと、できれば、綺麗な本を作ることができるようになればいいな、って」
「どんな本を、誰のために作るのか、それを考えてね。それが本作りの第一歩、スタート地点なんだから」
「誰のため――?」
「世界中の本は、すべからく誰かのために生まれてくるものです」
本を愛する心やさしい人たちのファンタジー。大冒険物語ではないけれど(少しだけ魔法の世界で危険に遭う)、クラウディアの波乱の境遇、そして瑠璃の大切な家族の話も。
クラウディアは長く生き続けて、そのことに飽きていた。瑠璃と出会って決意新に。
……
こんな自分でも、こんな自分の持つ技術でも、この子を喜ばせることができるのなら。
自分という本に刻まれた言葉を知識を思いを、この子に伝えることができるのなら。
生きてみよう、と思った。
もう鼓動を打たない心臓しかこの胸にはないけれど、それでももう一度、生きてみよう。
……
もっとエピソードを紹介したいけど、読者の楽しみを奪ってはいけない。
(平野)