■ 谷崎潤一郎他 『あまから随筆』 河出新書 1956年(昭和31)1月刊 カバー装幀 吉村祥
雑誌『あまカラ』に掲載された随筆を選んでまとめたもの。『あまカラ』は1951年8月に創刊した月刊誌。大阪の菓子司「鶴谷八幡」のPR雑誌(甘辛社発行)。まだ食料事情が良くない時代に、“たべもの・のみものの楽しい雑誌”と銘打った。他にも随筆や連載コラムが出版され、人気雑誌だった。68年休刊。
目次
「すむつかり」贅言 谷崎潤一郎
鮨のはなし 佐藤春夫玉子焼の話 宇野浩三
舌 里見弴
ボルシとテロリスト 荒畑寒村
母の舌 草野心平
名物の味 藤島桓夫
河上徹太郎、獅子文六、戸板康二、佐野繁次郎、吉屋信子、吉田健一 ……
谷崎の「すむつかり」の後にも「すむつかり」が2篇続く。
谷崎作品『乳野物語』に比叡山の元三大師と大豆の話が出てきて、「すむづかり」という料理のことが書かれている。煎って酢をかけた大豆を酒粕と大根おろしで煮て醤油で味付けするもの。谷崎が作ってみたいが京都の料理専門家も知らないと書いたところ、いろいろと反応があった。
芸大の先生が自分の郷里・栃木県佐野では「普通ありきたりの料理」で、にんじんや塩鮭のアラを加える、と。「しみづかり」「しもつかり」と言う。亡母が年越しにまく豆を残しておいて初午の日に作ったように記憶。元三大師ゆかりの古い寺があるので、ここから比叡山に伝わったのではないかと想像している。読者から、郷里の茨城県の一部地方で、「すみつかり」(読者は酸味つかりと理解)を初午の日に作る、という情報。家によっては塩鮭の頭でダシをとるなど、料理法、食べ方も紹介している。
谷崎も、「宇治拾遺物語」に記載されているとか、柳亭種彦が書いているとか知識を披露する。
料理研究家からは、一部地方の郷土料理ではなく「祖先食」で、保存食、栄養食という説がもたらされる。
こういうつながりが面白い。
(平野)