■ 金子光晴 『女たちへのエレジー』 講談社文芸文庫 1998年8月刊
『詩集 女たちへのエレジー』(49年創元社)、『愛情69』(68年筑摩書房)を文庫化。
女たちへのエレジー
序南方詩集
畫廊と書架
こころのうた
愛情69
解説 中沢けい 年譜 中島可一郎 著書目録 原満三寿
「女たちへのエレジー」は昭和初めの東南アジア放浪をもとに書いた作品。「愛情69」は男女の愛の詩69篇。
「西日本新聞」に連載した随筆「日々の顔」(73.3~5)、74年青娥書房単行本。文庫化で同年代のものを追加。
「随筆のこと」
元来、随筆というものは、達人のやることで、視界の狭い僕などに、ろくなものが書けるわけはない。さりげない短文のなかに、書く人の人柄のよさがあらわれ、処世の参考になるような生きかたの秘密を教えられたりする。そういう随筆をよむと、こころがほんのりとしてくるものだが、ゴツゴツ生きてきた僕には、人をほんのりさせるような要素は、あんまりないようである。(略、昔から詩人は随筆を書いた、生活のため。満足に考えるひまがないくらい次々現実に追い立てられる。随筆だけは閑日月がいいものをつくるようだ)
僕はまだ、年齢的にはたしかに隠居さん格なのだが、僕のまわりは修羅場がつづいている。仄かな随筆がつくれるようになるには、まだしばらく、人生修業が必要かもしれないが、そのあいだに、地球が滅亡するかもしれない。(略)すべて楽観的に考えて、せせこましくなく生きることだ。じぶんも他人もいじめないことだ。
九十歳まで生きることができたらありがたい。そしたら、淡々たる、風味のある随筆を、また書かせていただく。
単行本刊行の翌年、80歳で亡くなった。
(平野)善行堂で購入。