解説 下川耿史
酒井潔(1895~1952)、名古屋市生まれ。魔術、性愛文献収集、風俗研究。2012年国会図書館が公開したデジタルアーカイブで『エロエロ草紙』(13年彩流社復刊)がダウンロード第1位になり、注目された。
昭和初期の色町探訪記。前年刊行した『巴里上海歓楽郷案内』が好評だったので続編を出版。
1931年(昭和6)4月竹酔書房から出版したが発禁、5月改訂版。8月成光館書店から第3版(本書はこれを底本とする)。本年5月に彩流社が「改訂版」を復刊していて、初版との「異同表」をつけている(B6判、3800円+税)。
目次
第一編 東京歓楽郷案内 銀座風景 夜の浅草 エロの山手 花街秘話 魔窟街 ……
第二編 大阪歓楽郷案内 道頓堀 芝居茶屋と裏表 色町の灯 上方名物やとな ……
第三編 横浜歓楽郷案内 ハマの遊び場 本牧ガール 横浜山之手風景 ……
第四編 神戸歓楽郷案内 波止場附近のガイド 港街の仙境 神戸の明暗近代色 ……
昭和初期の「エログロ・ナンセンス」は世界大不況の影響で人々が性的な振る舞いに走ったと見られている。しかし、酒井の見方は違う、と下川は言う。
……関東大震災で「ペシャンコになった惨めな影」から脱却した人々が、今や生きる喜びや生きて行くためのエネルギーをどのように発散させているかが、この時代の特徴だというのである。……
「エロ風俗」は庶民の頽廃や崩壊の象徴ではなく、災害から立ち上がる、権力の横暴に立ち向かう、「庶民の生きる力の表現」である、と。
(平野)