■ 林哲夫 巴里みやげ 『菩提樹の花降る街』
清吉は客の呻きに「云い難き愉快」を感じる。悲鳴を上げる男には「辛抱しろ」と言い、我慢強い者には「そろそろ疼き出して堪らないようになる」と笑う。
清吉の願いは、「光輝ある美女の肌」に自分の魂を刺し込むこと。ある夏の夕べ、深川の料理屋の前で駕籠に乗る真っ白な女の素肌に目を見張る。
5本の指、爪の色、踵のまる味、皮膚の潤沢……、「この足こそは、やがて男の生血に肥え太り、男のむくろを踏みつける足」だと思う。
1年後、なじみの芸者の使いで見慣れない娘がやって来た。あの女だとわかった。
巴里古本散歩随筆。A3二つ折、おまけの栞入り、私のは講談社文庫の和田誠「マザーグース」。
冒頭の詩はランボー「小説」。
……ランボーが書いている菩提樹の匂い、これをまさに六月のパリで体験した。パリ市内のちょっとした公園や広場には巨大な菩提樹が植えられている。六月から7月にかけて小さな黄色い花を無数に咲かせる。その時、何とも言えない芳香(異臭ともとれる)を放つのである。ある夕暮れ時、路傍で「おや? これは」と思って辺りを見回して気付いた、菩提樹の下にいたことを。……
会場で買った林放出本。
■ 谷崎潤一郎 『刺青』 春陽堂文庫 昭和22年9月刊
表題作他全7篇。
「刺青」
浮世絵師から刺青師になった清吉。彼が手がけるのは気に入った皮膚と骨組みを持つ人間だけ。構図と費用も彼の思うまま。そうまでしても、というか、そのうえ、客は針の苦痛に耐えなければならない。清吉は客の呻きに「云い難き愉快」を感じる。悲鳴を上げる男には「辛抱しろ」と言い、我慢強い者には「そろそろ疼き出して堪らないようになる」と笑う。
清吉の願いは、「光輝ある美女の肌」に自分の魂を刺し込むこと。ある夏の夕べ、深川の料理屋の前で駕籠に乗る真っ白な女の素肌に目を見張る。
5本の指、爪の色、踵のまる味、皮膚の潤沢……、「この足こそは、やがて男の生血に肥え太り、男のむくろを踏みつける足」だと思う。
1年後、なじみの芸者の使いで見慣れない娘がやって来た。あの女だとわかった。