■ 佐藤愛子 『佐藤家の人びと――「血脈」と私』 文春文庫 533円+税 2008年5月刊 デザイン 野中深雪 単行本は05年文藝春秋より
家族の生の姿を描いた小説『血脈』(「別冊文藝春秋」に12年連載、2001年単行本化)の資料ほか、作品にまつわる講演、対談など。
明るいユーモア小説の作家と思っていた。阪神間のエエトコのお嬢様という印象だった。
しかし、一族は“普通”ではなかった。男たちは不良ばかり。
愛子の父は小説家・劇作家の佐藤紅緑(1874~1949)。母は女優シナ。「おかあさん」で有名な詩人・サトウハチロー(1903~1973)は異母兄。
シナの登場で悲惨な家庭崩壊が始まる。兄たちは放蕩をくり返し借金だらけ。後始末は父親。しかし、異母妹たちを可愛がってくれた。憎めない人たち。
『血脈』は本当に悲惨な話なんです。だけど、読むにたえないというふうな作品にならなかったのは、登場人物がみんな楽天家だったからだと私は思うんです。
愛子は結婚に失敗している。2度目の夫の借金を、愛子が背負った。
そのときに思ったことは、「お父さんもやったんだ」ということです。私の父は、自分の家庭を破壊して、そのために息子達に苦しめられました。だが、その息子達のためにも金が必要、私の母はとにかく舞台にたちたいという一心の人だから、母に芝居をさせるためのお金も必要、芝居するには役者が必要ですから、その役者を抱え込んでその生活も見なければならない。ものすごい働き方をして、こうしたことのすべてを切り抜けてきた人なんです。(略)でも、考えてみますと、父がああいうふうに一所懸命にやったのは、惚れた女のためなのです。私は亭主に惚れてもいないのに、どうしてこういうことになってしまったのだろうと思いましたね(笑)。
だが、これは父から私に伝わった血なのです。「負けるとわかっていても闘わなければならない」という厄介な言葉を父は残してくれました。八郎は、「愛子が一番親父の血を引いている」とよく言いましたが、まことにそうだったのかなと、このごろ思うことがあります。(平野)