■ 田宮虎彦 『悲恋十年』 弘文堂フロンティア・ブックス 1964年(昭和39)12月刊
表題作他全5篇。
「悲恋十年」は63年NHK,64年TBSと続けてドラマ化。本書はTBS版に合わせて出版。本としては60年に角川文庫で出ている。
「悲恋十年」
題名どおりの恋愛物。10年前、日本で結婚を考えた男女が別離。敗戦後のインドネシアの島で再会。男は従軍画家。女は慰問に来た歌手で戦争悪化のため帰れず、日本人ホテルで働いていた。収容所から帰国の船中、女は病の男の看病をする。
所収作品のうち「小さな赤い花」は同名の長篇の一部。田宮の神戸少年時代を題材にした悲しくて辛い物語。
母親を亡くした少年は父親と後妻(愛人?)に可愛がられず(折檻、虐待)、飯炊きの老婆の部屋で過ごす。老婆には足の不自由な孫娘がいる。ふたりの子どもは母恋し、父恋しの境遇。最初少年は少女をいじめるが、次第に心寄せ合う。ふたりは教会裏の空家になっている洋館で遊ぶ。少女は疲れて寝てしまう。少年は赤いひなげしの花で飾ってあげる。しかし、その日老婆の部屋に戻ると、少女の母親が引き取りに来ていた。
(平野)
弘文堂は法律書や精神医学書のイメージが強いが、かつてはカッパブックス、カッパノベルスに対抗するシリーズを出版していた。海外文学やノンフィクションのシリーズもあった。