2014年9月8日月曜日

ロッパ食談


 古川緑波 『ロッパ食談 完全版』 河出文庫 740円+税

解説 立川志らく  カバーデザイン・装画 牧野伊三夫

 初出は雑誌『あまカラ』(195357)。

 古川緑波19031961)東京生まれ、喜劇役者、エッセイスト。1933年徳川夢声と劇団「笑の王国」結成。

目次

洋食衰えず
日本の幸福
下司味礼讃
食書ノート
甘味休題
美々卯
神戸
色町洋食
あとがき――にしては、長すぎる
……

 昭和の初め、緑波が早稲田大学1年生の時、菊池寛に誘われ文藝春秋で働く。初対面で銀座の「レストオラン」でご馳走になる。スープ、カツレツ、ライスカレー、デザート。

 ああ何と美味というもの、ここに尽きるのではないか!
 実に、舌もとろける思いで、その後数日間、何を食っても不味かった。(略)
 正直のところ、僕は、ああいう美味いものを毎日、思うさま食えるような身分になりたい。それには、どうしても千円の月収が無ければ駄目だぞ、よし! と発憤したものである。

「神戸」 宝塚映画出演時。

 撮影の無い日は、神戸へ、何回か行った。三の宮から、元町をブラつくのが、大好きな僕は、新に開けたセンター街を抜けることによって、また、たのしみが殖えた。
 センター街はしかし、元町に比べれば、ジャカジャカし過ぎる。いささか、さびれた元町であるが、僕は元町へ出ると、何だか、ホッとする。戦争前の、よき元町の、よきプロムナードを思い出す。
 戦争前の神戸。よかったなあ。

 三の宮2丁目のビフテキ、フランス人が経営する洋食屋、南京町の中華、肉饅頭、元町のすき焼き、大衆グリル、アイスクリーム専門店、喫茶店……、戦前、戦中、戦後まもなくの頃の店と味の思い出が緑波に蘇ってくる。

(平野)