■ 『新潮 臨時増刊 日本の詩 101年 1890~1990』 新潮社 平成2年(1990)11月10日発行 編集協力 正津勉・平出隆
「一年一詩」を原則に、101年101篇の詩を集める。
刊行のことばより
……
このアンソロジーは、詩を時間の節目節目にあらためて丹念に置き直すことで、かえって、詩がどのように時間の中に懐胎され、詩がどのように時間を超えようとあらがってきたかを明らかにしようとする。
それは日本語という私たちの生きる場所の絶えざる革新の跡であり、私たちの感情の奥深い発掘の歴史である。
1890年(明治23) 森鴎外「青邱子」(訳詩)
青邱が身は、いやゝせに 痩せたれども、其昔 五雲閣下にすまひけむ、清き姿ぞしのばるゝ。……
(解説)……それまでの漢詩の古調を離れて、若々しいロマンティシズムを漂わせた。……
1896年(明治29) 島崎藤村「初戀」
まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり ……
(解説)「遂に新しき詩歌の時は来りぬ」という序文とともに『若菜集』は詩の新時代の幕開けを告げるものとなった。(略)『新体詩抄』の編者たちに手の届かなかったのは、恋愛詩による清新な感情の開花ということであった。
1905年(明治38) 上田敏『海潮音』よりポル・ヱ゛ルレエヌ「落葉」
秋の日の ヰ゛オロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し。……
(解説)(伊・英・独・仏の詩)中でもフランス象徴派の紹介は当時の詩壇に清新な影響を与え、日本の象徴詩の一達成を導いた。……
1911年(明治44) 石川啄木『呼子と口笛』より「ココアのひと匙」
われは知る、テロリストの かなしき心を――
言葉とおこなひとを分かちがたき ただひとつの心を、……
(解説)……大逆事件直後のいわゆる社会主義の「冬の時代」の閉塞感を批判的に止揚せんとした詩稿で……
(引用の詩、原文は旧字・旧かな)
対談
「百年の詩史の光景」 辻井喬・平出隆「詩の楽しみ、詩の苦しみ」 谷川俊太郎・正津勉
「一年一詩」で洩れてしまっている著名詩人も多い。
(谷川)……アンソロジーっていつでもそうだけど。俺なんかもこれ見て、不平満々よ。なんでこの人が落ちてんだみたいのがさ。(略)正津勉なんて詩がわかってねえんじゃないかって思うよ。
(正津)そういうことで、あとからひどく叱られそうなんですけれどね(笑)。(平野)
編者の苦労、続く。