■ 中野嘉一 『稲垣足穂の世界』 宝文館出版 1984年6月刊
装釘 出岡実
中野嘉一(1907~1998)、精神医学者、詩人、歌人、文学評論も。『稲垣足穂全詩集』(宝文館)編者。
Ⅰ コメット・タルホの飛行記録
Ⅱ 幻想空間の軌跡 ダンセイニと足穂の幻想文学 反自然の思想と科学 星と月への偏執 足穂と詩人たち 足穂と戦争 ……Ⅲ 稲垣足穂ノート 足穂のヒコーキ・ロマンティク 足穂の手紙 日本文学大賞と三島由紀夫 足穂の太宰治観 「死に語録」 ……
精神医学的見地から足穂の作品を論じる。初期の詩や空間論、時間論から、彼を「パラノイア的と判断」する。
足穂は60歳の時、京大精神科でロールシャッハテストを受けた。当時近代日本文学会の企画で、佐藤春夫、三島由紀夫、江戸川乱歩ら20余名が心理診断を受けたそう。
足穂についての所見を中野が要約。
……稲垣足穂は分裂性性格者で具体的なものを拒否し、現実的情緒的な対人関係をともなう現実社会への適応に欠けるが、独自のはなはだ豊かな空想力によって幻想的世界を創造して、そこに住む人間と情緒的共感性を得ている。その観念活動はパラノイア的傾向をおびることすらある。同性愛的傾向が窺われるが、真性倒錯ではなく、非常化された性器を通じての原始心性への復帰、物心崇拝的な願望への強い執着である。(略)
……パラノイア的であるといことは、形而上的で、ミスティック、しかもロジカルな思想も具有しているということである。病理学的には、ふつう、パラノイア的とは知性で、どうにも処理できない不動の妄念的な信念のことで、現実界のうら側にひろがっている非現実の世界をみる心のことであると定義される。……
「明らかに同性愛者である」とも。
(平野)
「ほんまにWEB」連載、「しろやぎさん・くろやぎさん往復書簡」第2回は「倉敷のくろやぎさん」。