2014年5月12日月曜日

悪の華 安藤元雄訳


 『ボードレール 悪の華』 安藤元雄訳 集英社 19832月刊

口絵 エドワール・モネ作〈ボードレール像〉
挿絵 オディロン・ルドン作〈悪の華〉9
装幀 安藤元雄
91年集英社文庫、新刊本屋で入手可能。


目次
悪の華(一八六一年版)  
読者に  憂鬱と理想  パリの情景  酒  悪の華  反逆  死
禁断詩篇
新・悪の華
拾遺詩篇  『漂着物』から  追補
作品細目  解説  ボードレール年譜

 
「禁断詩篇」は初版から削除を命令された6篇。

 宝石
いとしい(ひと)は裸体だった、しかも、私の心を知りぬいて、
音高く鳴る宝石だけを身につけていた。
その絢爛豪華なよそおいの 誇らしげな姿と言えば
幸福の絶頂にあるモールの女奴隷を思わせた。
……

『悪の華』はシャルル・ボードレール(18211867)が生涯に1冊出した詩集。1857年、詩集はすぐに風俗壊乱罪で罰金と6篇削除。罰金は払えず、皇后に嘆願書を書いてまけてもらった。放蕩が過ぎて、後見人は父の遺産を定額支給しかしない。生活苦から借金、パリを逃げ、ベルギーで病に倒れた。安藤は「悲惨な一生」と言う。

 にもかかわらず、そのたった一冊の『悪の華』が、その後のフランスの、ひいてはヨーロッパの、さらにはその影響を受けたもっと広汎な国々(その中にはむろん日本も入っている)の、詩の流れを決定した。

 近代詩はボードレールに始まると言う。

……彼が第二帝政時代のブルジョア社会からいかに毛嫌いされ、危険視されようとも、彼のともした火はすぐさまヴェルレーヌに、マラルメに、ランボーに、ロートレアモンに燃え移った。そのあとの歴史は、もはやここでたどるまでもなかろう。

 ボードレールの業績を一言で明快に言えない。『悪の華』は理想あり、絶望あり、古典的であり、ロマン主義あり、歌謡調あり。

……『悪の華』によってボードレールが示したものは、まさにそうしたあらゆる矛盾の総体であり、あらゆる書法のせめぎ合いだった。彼は恣意的にそれまでの詩に異議を唱えたのでもなく、また、ほんの思いつきを振りまわすことで独創的であろうとしたのでもない。むしろ十六世紀から十八世紀に至るフランスの詩の伝統を充分に受けとめた上で、それと現実とのへだたりや矛盾を一身に引き受けて行ったのだ。……

 放蕩、阿片、娼婦……、現実の地獄を見ただろう。政治活動でも理想は敗れ、ナポレオン三世の登場で挫折・失望。

……そういう地獄の中で青白い夢を見る――それも、逃避としてでなく、むしろそれによって地獄をいっそう深くするような、垂直の方向の夢を見る――すべを、かれはアメリカの「呪われた詩人」エドガー・アラン・ポーから学んだに違いない。

(平野)
 NR出版会HP連載 書店員の仕事 特別編 震災から三年をむかえて
南相馬市おおうち書店 大内さん「天職としての本屋(下)」
http://www006.upp.so-net.ne.jp/Nrs/memorensai_45.html